作:月より
=== 9000年前 ===
「タチカ姫、ルミチ姫、ラクル姫、もう駄目です。地殻変動によりもう数時間で、このアトランティスは滅亡します」
「そうですか・・・。これだけ、文明が進んでも自然の力には逆らえないのですね。もう数時間しかありませんが、残りの時間、家族の下にいておあげなさい。今まで、ありがとう」
「姫・・・、もったいないお言葉。ありがとうございます」
「ルミチ、ラクル、泣いてはだめですよ。まだ、希望を捨てちゃいけません」
「だって、もう」
「タチカお姉ちゃん、こわいよぉー」
「ルミチ、ラクル、私の最後のお話をよく聞きなさい。たしかに、もう数時間でこのアトランティスは滅亡します。歴史も私達も跡形も無く。ただし、私達の文明をこの王家に伝わるカチューシャで残すことができます」
「でも、それは・・・」
「わかっています。でもこの方法でしか、私達が生きてきた証を残すことが出来ません」
カチューシャを軽く押すと、20cmほどの小さな透明のパラソルが、ポンっと出てきた。
「ルミチ、ラクル、こちらに」
「はい」
「ラクル、もう泣かないで・・・。私もルミチお姉ちゃんも、ずーっと一緒だよ♪」
「うん」
「それでは・・・始めますよ」
タチカは、小さなパラソルを逆さに持ち自分に向けて開いた。すると、パラソルは手を離れ宙に浮き、3人の身体をまばゆい光で包み、足が宙に浮いた。
3人は身動きが取れなくなると、足の先から身体や着ている衣装も徐々に透明になりはじめた。
「なんだか、キラキラ輝いてきれいだね、おねえちゃん♪」
「もう胸のあたりまでクリスタルだね・・・」
「もうすぐ、顔も瞳も髪も・・・」
・
・・3人は透明なクリスタル像になった。さらにパラソルの先からは、赤・黄・青の光が3体のクリスタル像に放たれるとキラキラとそれぞれの色に輝きだした。
(お姉ちゃん、なんだかあったかいね)
(これで、これで、いいんだよね)
(いつか、このカチューシャを見つけてくれる方が、きっと・・・)
次の瞬間、パラソルが高速で回転し始めた。
・
・ ピキ・・ピキ・・ピキピキピキピキピシピシ!!
・
・
お姫様だったクリスタル像に、ヒビが入りだすと瞬く間に全体に広がり、金属音とともに弾け、色が付いた結晶となった。その結晶はパラソルの先から吸い込まれ、透明だったパラソルは赤・黄・青の3色パラソルとなり、回転が収まると元のカチューシャに戻った・・・。
=== 現在 ===
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私、若狭結姫(わかさゆうき)。小学5年生。私が小さい頃に夢に出てきたお姫様たちにカチューシャもらったの。これを軽く押すとね、小さな3色パラソルが出てくるんだよ。そして、夢に出てきたお姫様を思いながらパラソルを開くと、まぶしく光って、結姫の身体は足の先から透明になっていくの。初めての時はとってもびっくりしたけど、今では変わっていく時、とてもワクワクしちゃうんだよ。だって、足も手も透明に透けていてきれいなんだモン♪そして瞳まで透明になると、結城の部屋がみんな輝いて見えるんだよ!最後には、結城のからだは全部透明になって、空きびんみたいになっちゃうの。するとパラソルを持っていた手から、色の付いた結晶がぱぁーっと、足の先から頭の先まで身体いっぱいに入ってきて、気がつくとそのお姫様になるんだよ♪でもね、10分したら結姫に戻ってしまうの。私の部屋でしか出来ない、私だけのひみつ。
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結姫は、最近、夢の中でお姫様になにか話しかけられていた。朝起きて、覚えていることは、(・・・パラソルを逆さ・・。信じ・・・)
学校から帰ると自分の部屋で、いつものようにカチューシャを軽く押し3色のパラソルにした。
「お姫様、これでいいのですか・・・」
結姫は、自分に向けてパラソルを開いた。するとパラソルは手から離れ宙に浮き、結姫の身体をまばゆい光で包み、足が宙に浮いた。身動きが取れなくなると、足の先から身体や着ている服も徐々に透明になりはじめた。
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・ 「い、いつものと感じが違うよぉー・・・。なんだか、パラソルに気持ちが吸い込まれているみたい・・・」
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数秒後、結姫はクリスタル像になった。さらにパラソルの先から、緑色の光がクリスタル像に放たれるとキラキラと緑色に輝きだした。
(お姫様、結姫は怖くないよ。だって、今まで夢の中でいつも笑顔で見守ってくれていたから・・・)
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次の瞬間、パラソルが高速で回転すると、結姫だったクリスタル像にヒビが入りだすと、瞬く間に全体に広がった。
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ピキ・・ピキ・・ピキピキピキピキピシピシ!!
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金属音とともに弾け、緑の結晶となった。結姫だった結晶がパラソルの先から吸い込まれると、パラソルの柄の方からは、青色の結晶が光を放ちながら空気中に放出され、徐々に青色のクリスタル像が形成された。パラソルの回転が収まり、それまで放っていた光が完全に失うと、クリスタル像はタチカ姫になった。足元には赤・黄・みどりの3色パラソルが落ちていた。
「ここは・・・、外に出られたのね。結姫さん、ありがとう・・・」
タチカは、赤・黄・みどりの3色の小さなパラソルを手に取り、柄の部分を手でひねりながらひっぱると「ポン」と外れ、そこから、赤・黄・みどりの結晶が噴出し、それぞれクリスタル像を形成しはじめた。光を失うとクリスタル像は、ルミチ、ラクル、結姫に変わり、不思議そうな顔で立っていた。
「タチカお姉ちゃん、ルミチお姉ちゃん♪」
「よかったね♪」
「わぁー、夢に出てきたお姫様たちだぁー・・・」
「結姫さん、私はタチカと申します。こちらは、ルミチとラクルです。遥か昔、繁栄そして滅亡したアトランティス帝国の姫だったものです。あなたのおかげで私達は外に出てくることが出来ました。本当にありがとうございます。ただ、私達のこの身体はカチューシャに何千年と留まった影響で、この世界では10分ほどしか留まることが出来ません。再び、カチューシャに戻ることになります。そこで結姫さん、お願いがあるのです。時々で結構ですから、こうして外に出してもらえないでしょうか?」
「いいよ♪私も、お姫様に変身させてもらえてたんだし。でもでも、そんなこと言わずにこちらに長くいたらいいじゃないですか」
「タチカお姉さんも言ったけど、私達の身体は、この世界では・・・」
「私の、そう、結姫の身体を使ったらいいですよ♪結姫とお姫様お二人が、カチューシャに入って、残ったお姫様が、パラソルで私に変わったら、この世界に長くいてられるでしょ。どう?結姫、えらいでしょ♪」
「えっ!?た、たしかにその方法だと長くこの世界にとどまることが出来ますが、そんな・・・そこまでしてもらっては・・・ルミチは、どう思う」
「結姫さんの私生活は幼稚園の頃から見てますので、人付き合いや知識は問題はありません。また、結城さんがカチューシャに入っても、身体はすぐに外の世界に出ることになりますので、私達のように身体に影響を及ぼすことはありませんけど・・・」
「ラクル、外で友達と遊びたい♪」
「それじゃ、決まりですね♪ではでは、私(結姫)とあと2人カチューシャは入る人決めてね。3人が外に出てきてから、もう7、8分ぐらい経つしね。とりあえず2日ぐらいしたら、また4人で会いましょう」
「結姫さん、本当に、本当にありがとうございます(涙)」
こうして、結姫と3人のお姫様は不思議なカチューシャと共に暮らすことになりました。
「タチカ姫、3人一緒だと、なんだかどきどきするね」
「結姫さん、タチカ姫でなく「タチカ」でいいですよ。もうすぐパラソルからの光が私達を包んで、身体がクリスタルになりますよ」
「結姫おねえちゃん、これからもお友達でいてね♪」
「うん、こちらからもよろしくね♪あっ、ルミチさん。外の世界、楽しんできてね!」
=== その日の夜 ===
「ゆうきー、晩御飯できたわよー」
「はい・・・お母さん」
「どうしたの、えらく大人しいじゃない。今日は結姫の好きな「肉じゃが」だよ」
「・・・」
「どうしたの?結姫、おなかでも痛いの?涙、出てるわよ」
「・・・おいしい・・・ごはん、ごはん・・・とっても・・・。お母さん、おいしいです(涙)」
(おわり)
<登場人物>
若狭結姫(11歳、みどり色)・・・お姫様たちと波長が合い、夢の中でふしぎなカチューシャをもらう。とても純粋な心を持つ、小学5年生。(名前は、夢幻伝説タカマガハラ全5巻(講談社・立川恵)の主人公から取りました。「結ぶ姫」と言う名前が、この作品にぴったりだったので。このコミックも面白いので、よかったらご購読を♪)
タチカ・アトランティス(14歳、青色)・・・しっかり者のお姉さん。この子がカチューシャの使用を思いつかなければ、今頃、アトランティスとともに亡くなっていた。
ルミチ・アトランティス(11歳、黄色)・・・科学大好きな女の子。アトランティスでは科学分野の英才教育を受けていたので、結姫の世界での科学力は、ルミチにとって「おもちゃ」同様。結姫にアトランティスの科学を教えることで恩返しできればと思っている。
ラクル・アトランティス(8歳、赤色)・・・甘えん坊の女の子。年齢は結姫より3歳下も学力は、結姫の世界では「中学3年生」並み。
カチューシャ・・・アトランティスの科学の推移を集めた王族の宝具。故障は皆無。ルミチでもこのカチューシャは作ることが出来ない。カチューシャの○の部分を軽く押すと、パラソルに変わるが、王族か王族と波長の合ったものでないと変わらない。