Asfre 第13話「メデュース」

作:幻影


 メデュースを前に愕然となる童夢。その驚愕ぶりを妖しく見つめるメデュース。
(何を恐れている・・・コイツを・・私の手で・・・!)
 童夢は迷いを振り切ろうとしながら、銃を取り出し、メデュースに銃口を向ける。しかし、無意識に手が震え、狙いが定まらない。
「そう。そうやって私を憎んできたのね?でも大丈夫だよ。私がその怒りから解放してあげる。」
「ふ、ふざけたことを・・・!」
 からかうように語りかけてくるメデュースに、反論しようとする童夢。しかし銃を持つ手の震えが、その気持ちをかき乱してしまう。
「このくらいの抵抗はしてくれないと、手に入れた気がしてこないものね。さぁ、撃ってみてよ。」
 手招きをし、童夢に発砲を促すメデュース。
 そんな挑発的な言葉を受けても、童夢は引き金を引くことができなかった。
 姉や夕菜に対する思いが、彼女の中で交錯していた。それが逆に、彼女にメデュースを撃たせることを拒ませていた。
(撃て・・・撃つんだ・・・でないと・・・でないと・・・!)
 割り切って標的を撃とうと必死になる童夢。しかしそう迫れば迫るほど、迷いが強まり心の中に広がっていく。
 その彼女の心境を、メデュースは気付いていた。彼女が撃つことに躊躇してしまっていることを知っていたから、あえて挑発的な誘いをかけたのである。
 相手を見定めることさえできなくなり、次第に塞ぎ込む童夢。戦意が失われ、肩から力が抜けていく。
 童夢の戦意が完全に喪失した。メデュースに向けていた銃がゆっくりと下ろされる。
「ん?どうしたの?私を撃たないの?」
 メデュースが童夢に、分かりきっていることを聞く。
 銃を持った手をだらりと下げて、童夢はひとつため息をつく。
「最低だな、わたし・・・」
「ん?」
「肝心なところで情に流され、自分の倒すべき相手を前にして、こうして迷ってしまうとは・・・愚の骨頂だ・・・」
 諦めの笑みを浮かべて、童夢は銃をメデュースに向けて放る。彼女の言動に、メデュースは眉をひそめる。
「もうダメだ・・・私はお前を殺せそうにない。煮るなり焼くなり、好きにしろ。」
 童夢のこの言葉に、メデュースは少し驚いた表情を見せる。彼女が完全な降参を見せるとは意外だった。
「どうするんだ?その銃で私を撃つか?それとも姉さんや神楽みたいに石にするのか?」
 童夢がさらにメデュースを促す。メデュースは思わず笑みをこぼす。
 これは彼女にとって都合のいい意外だった。これで童夢を手に入れられることになる。
「あなたが進んで私に体を差し出すなんて。でも、その言葉に甘えることにするね。」
 メデュースは微笑みながら、立ち尽くしている童夢を優しく抱きとめる。
「さぁ、私の眼を見て。あなたを気持ちよくさせてくれる、アスファーの眼をネ。」
 メデュースが童夢に顔を向ける。童夢は緊迫しながら、近づけてくる顔を見つめる。
 その額がうごめき、第3の眼が見開かれる。

    ドクンッ

 突然の胸の激しい鼓動に、童夢は眼を見開いた。その衝動に唇が小刻みに震える。
(何だ、この胸の高鳴りは・・・私の心を強く揺さぶる・・・!)
 その衝動に困惑する童夢。体まで震えて、なかなか声が出ない。
「これであなたは私のもの。今からあなたを、復讐っていう束縛から解放してあげるね。」
 メデュースは童夢から離れ、彼女に意識を傾ける。
  ピキッ ピキッ ピキッ
 童夢の身に付けているシャツとジーンズが引き裂かれ、白く固まった肌がさらけ出される。
「あっ・・・!」
 童夢が顔を赤らめ、石化し始めた自分の体を見つめる。左腕、左胸、尻、そして秘所が、メデュースの石化によってさらけ出されていた。
「ふぅん。けっこういい体してるんだぁ。少し大人びた雰囲気だから、こんなきれいな体をしてるなんて思ってなかったよ。」
 恥じらいを見せている童夢を、メデュースは妖しく微笑みながら見つめる。
(な、何なんだ、この気分は・・・全てをさらけ出されている気分だ・・・外見以上に・・・)
 胸の高鳴りを押さえきれず、童夢の呼吸が荒くなる。しかしそれほど恥辱は感じなかった。
 今まで感じたことのない、不快感とも思えない気分だった。とても抑えつけられない、さらに求めてしまいそうな心地よさだった。
「今まで私を憎んでばかりだったから忘れてたんでしょ?あなたが“人”だってことをね。」
 メデュースは童夢に近づき、その肌を見つめる。童夢の緊張がさらに高まる。
「さて、始めようか。これからたっぷりと感じさせてあげるね。」
「な、何をしようっていうんだ・・・!?」
「フフ、あなたなら分かってるはずだよね?こうするんだよ。」
 困惑する童夢の問いかけに答えながら、メデュースは石化していない彼女の右胸に手を当てた。
「うくっ・・・!」
 童夢は胸を触られうめく。その声を耳にして、メデュースがさらに微笑む。
「そう。そうやって感じてね。いい気分になるのはこれからだよ。」
 メデュースがそこから童夢の胸を揉み始める。強い刺激が童夢の体を駆け抜ける。
「うっ・・・ぅぅぅぅ・・・」
「いい感じの胸だね。それほど小さくなくて揉みやすい。それにいい反応もしてるね。」
 さらにうめく童夢をうかがいながら、メデュースは感嘆する。相手が感じることも、彼女の喜びのひとつだった。
「復讐に全てを費やしてきた女の子が、心地よさを感じて、鋭くなっていた眼つきも緩み、張り詰めていた緊張が違った意味のものになる。そんな変わりようも私は嬉しくなっちゃうよ。」
 さらに童夢の右胸を撫で回すメデュース。童夢はただあえぐだけで、反論ができない心境だった。
「あなたは実はこうされるのが好きだったんだよ。」
「なに・・・私が・・石にされることを・・望んだ・・・!?」
「う〜ん、ちょっと違うかな。正確にはこうやって体を触られるのが好きなんだよ。あなたは憎しみに引き込まれて、いろんな人やアスファーを手にかけてきたけど、心のどこかで誰かに体を差し出したかったのよ。自分でも気付かないままにね。」
 メデュースの言葉に童夢は押し黙る。
 彼女はその指摘が、自分でも気付かなかったものだと感じ始めていたため、敵の言葉に反論できず、ただ押し寄せる快楽にあえぐしなかった。
(何を感じてるんだ・・・私は・・こうして弄ばれることを望んでいたというのか・・・)
 巡らせる思考も弱々しくなっていた。完全にメデュースの接触に翻弄されていた。
「アハハ・・いい感じの反応と胸の柔らかさだったね。さて、体のラインとかもいろいろ触ってみてみたいけど・・・」
 童夢の右胸から手を離し、メデュースは彼女の裸を見渡す。そしてその視線が、彼女の下腹部に向く。
「女にとっての大事な部分をいじくってみましょうか。」
 メデュースは微笑みながらかがみ込み、童夢の秘所に手を伸ばす。
「うはっ!・・ああぁぁぁ・・・・!」
 激しい刺激が体を駆け抜け、童夢のあえぎ声が大きくなる。
「この分じゃ、今まで気にかけて触ったり触られたりしてないみたいね。でも大丈夫だよ。そんなに痛くないから。もうこの部分は石になっちゃってるからなおさらね。」
 メデュースはさらに童夢の秘所をいじる。押し寄せてくる快感に、童夢はついに耐えられなくなる。
(ダメだ・・耐えられない・・・ガマンできない・・・!)
 思考さえ乱れてしまう。今の童夢は、メデュースの接触にすがるしかなかった。
 メデュースは顔を赤らめる童夢を見て微笑み、ひとまず彼女の秘所から手を離す。
「も・・もっと・・・」
 童夢の呟きがもれてきた。それを耳にしたメデュースが笑みを強め、童夢がはっとなる。
「ち、違う!・・・こ、これは・・・!」
 童夢が赤面しながら弁解するが、メデュースは悩ましい眼つきになる。
「そう。もっとやってほしいんだね?」
「違う!」
 否定の叫びを上げる童夢。恥じらいがさらに浮かび上がる。
「私は、私はそんなこと望んでない!私は姉さんのために・・!」
「体は正直なものだよ。気持ちの高まった状態っていうのは、心が体と一緒になっちゃうもので、ついつい正直に求めちゃうのよねぇ。」
 童夢の必死の反論も、メデュースはからかうように微笑みながら受け流す。
「それじゃ、もっとサービスしちゃわないとね。」
「やめろ・・・それだけは・・それだけは・・!」
  ピキキッ パキッ
 童夢が抗議の声を上げた直後、彼女の右手に石化が及んだ。
「あっ!・・ぁぁぁ・・・」
 さらなる拘束を感じ、驚きあえぐ童夢。まさに手が人のものではない、別の固いものに変わってしまったのである。
 ガラスのひび割れが直接体に刻み付けられる感覚に襲われる。彼女の意思で動かすことができない。
「やってる最中に叩かれでもしたらアレだから、右手も石にさせてもらったよ。これでたっぷりと楽しめるね。」
「よ、よせ・・・!」
 メデュースはかがみ込み、童夢の下腹部に手をかける。そしてそこに顔を近づけ、彼女の石化した秘所に舌を入れた。
「ぅあっ!・・ぁぁああああぁぁぁ・・・!」
 童夢が今までにない絶叫を上げる。眼を見開く顔を高潮させる彼女の叫びは、もはや言葉にはなっていなかった。
 抗いたかった。突き倒してその場から離れたかった。しかし、石化していく体ではそれも叶わない。
「ウフフ、ホントにいい声出すね。それじゃ、もっと舐めちゃおうかな。」
 童夢の反応を楽しみながら、さらに秘所を舐め回すメデュース。童夢はさらに叫び悶える。
 最も触れられたくない場所を舐められているのに、体が石になっているため抵抗さえできない。
 体の中にたまっているものが、全て外にあふれ出そうな気分だった。だが、石化した体、石化している秘所からは愛液は出ない。
(この気持ち・・・やられればやられるほど、体や心がスッキリしていく・・・どういうことなんだ・・・?)
 童夢は無意識に快楽に喜びを抱き始めていた。
 何も考えず、何も思いつめず、ただひたすらに刺激を感じ取ることが、人の最高の快楽だった。心の奥底に沈んでいるわだかまりを、快感によって外に解放する。
 今の童夢は、それを忠実に受け入れていた。
 強い刺激のあまり、彼女の眼から涙がこぼれる。それは快楽を感じている歓喜の涙なのか、弄ばれていることへの悲痛の涙なのか。その答えを探ることは、今の彼女にはできなかった。
(姉さん・・・姉さんも・・こういうのを望んでいたのかな・・・)
 完全に快楽に身を沈める童夢。頬を伝う涙がこぼれ、彼女の秘所を舐め続けているメデュースの頬に落ちる。
(童夢!)
「うっ!?」
 そのとき、快楽を感じていたメデュースの表情が一変。苦痛に顔を歪める。
 胸を締め付けるように押さえ、あえいでかすれた声を上げる。苦しみ悶えながら、完全に脱力している童夢から離れる。
「これは・・これはいったいどういう・・・!?」
 何が起きているのか分からず、メデュースは息の詰まる不快感に絶叫を上げる。
 そして彼女の体が突然光り出した。彼女のアスファーとしての力が抑えられなくなっていた。
 その光が外に飛び出し、人の形を取ってリビングの床に転倒した。
 その姿はメデュースそのもの、いや、夕菜だった。メデュースに取り込まれていた彼女が、再び外に飛び出してきた。
「こんな・・・こんなことって・・・!?」
 夕菜の姿を目の当たりにしたメデュースが愕然となる。完全に支配したと思っていた影が、再び彼女から分かれてしまったのだ。
「どうして・・・どうしてあなたが私から・・・!?」
 メデュースが悲鳴染みた叫びを夕菜に浴びせる。夕菜はもうろうとしている意識を覚醒させながら、ゆっくりと立ち上がる。
「私は速水夕菜・・・絶対に“あなた”なんかじゃない・・・!」
 夕菜は声を振り絞り、床に落ちている童夢の銃を拾い、銃口をメデュースに向ける。
 驚愕を隠せないメデュースだが、ふと微笑を浮かべる。
「まさか私の一部が、私から完全に離れていっちゃうなんてね・・・」
 メデュースは唇に指を当て、石化しかかっている童夢に視線を向ける。
  ピキッ ピキキッ
 童夢の石化が進行を再開する。石化の力を及ばせている相手は、完全にメデュースの思うがままになる。
「いろいろ楽しめたし、今日はもう帰るね。童夢もここに置いていく。でも彼女はこのままオブジェにするから。その体が石になっていくのをよく見ておくといいよ。」
 メデュースは妖しい笑みをこぼし、音を立てずに姿を消した。夕菜ははっとして銃の引き金にかけている指に力を込めるが、既にアスファーの姿は消えていた。
「童夢!」
 夕菜は銃をソファーに放り、石化の及んでいる童夢に駆け寄った。しかし童夢は意識が薄れていて、はっきりとした反応を示さない。
「童夢、しっかりして!童夢!」
 夕菜は童夢の頬に手を当てた。そこで童夢は、初めて夕菜の存在に気付く。
「ゆう・・な・・・?」
 小さくもらした童夢の声に、夕菜は笑みを見せる。彼女は安堵して童夢の石の体にすがりつく。
 石化していく童夢の体は、首から上を除いて白く固く冷たくなっていた。石化しても感覚は残るが、快楽に沈んだ彼女は、その感覚は麻痺していた。
  パキッ ピキッ
 メデュースのかけた石化は留まることなく、夕菜の触れる童夢の頬にまで侵食してきた。
「よかった・・・ぶじ・・だっ・・・た・・・ぁ・・・」
  ピキッ パキッ
 弱々しく発していた唇も石になり、揺らいでいる瞳も薄らいできていた。
    フッ
 その瞳さえも亀裂が生じた。
 童夢は完全な石像と化した。メデュースの力にかかり、復讐心も決意も全てを揺さぶられ、一糸まとわぬ白いオブジェにされた。
「童夢・・・童夢!」
 石化の終わった童夢に泣き叫ぶ夕菜。すがりついた彼女の涙が、童夢の石の体に飛ぶ。
 姉を想う復讐者は、その標的のアスファーの石の呪縛に囚われてしまった。

つづくつづく


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