Blood -double black- File.7 楽園をさがして

作:幻影


 アヤの乱入によって、会場内に動揺の色が淀んでいた。
「君、どういうつもりですか!?勝手に入ってこんな大それたことをして!」
 ゼンが血相を変えて詰め寄るが、アヤは気にも留めず、石化されたトモに近づいた。
「トモ、必ずお前を元に戻してやる。」
 アヤの言葉に、トモは少し心を落ち着かせることができた。
「早く!この人を追い払いなさい!」
 慌しくなった会場で、ゼンは警備をアヤに向かわせた。アヤとトモの周りに、ブラッドの力を解放した男たちが数人取り囲む。
「私はトモを助ける。お前たちの好きにはさせない!」
 アヤは振り返り、ウラヌスの刃を男たちに向けた。
「トモ、しばらく我慢していてくれ。私が元に戻すから。」
 アヤには石化されたトモの気配がすぐに分かった。彼女の思考も、アヤにはしっかりと伝わっていた。
(アヤ、あの紳士服を着たヤツを倒せば、石化が解けるはずだよ!)
 トモの心の叫びに、アヤは笑みを見せて小さく頷いた。
 ブラッドの力は使う人が死ぬか自ら力を解くことによって消失する。つまりゼンを倒せば、トモの石化は解けるということである。
 力を剣に変えて、男たちがアヤに迫ってきた。
「トモにこれ以上手出しはさせないぞ!」
 アヤはウラヌスを振りかざし、向かってきた男たちを迎撃した。さらに向かってくる男たちに、アヤはウラヌスの刃を向けて携帯の番号5と決定ボタンを押した。
 ウラヌスのエネルギー発射口からエネルギーの弾丸が次々と発射され、男たちを撃ち抜いていく。
 アヤを捕らえることができずに倒されていく警備たちの姿に、ゼンは驚愕する。
 アヤの、ウラヌスの驚異的な力の前に、ゼンはなす術を失いかけていた。
 ウラヌスの形状を再び剣に戻して、アヤがゼンに視線を戻す。
「お前か、トモを石に変えたのは!?」
 ゼンの顔が苛立ちに歪む。
「こうなれば、君もオブジェに変えてあげましょう!」
 ゼンがブラッドの力を右手に集中させ、アヤに向かって飛び出した。石化させようと伸ばした右手をかわし、アヤはゼンの腹部にウラヌスの刃を突き立てた。
 刃がゼンの体を貫き、その勢いでゼンを突き飛ばすアヤ。昏倒するゼンを目の当たりにして、観客たちが絶叫を上げた。
 ゼンが絶命し、石にされていたトモが元に戻った。
「あっ!元に戻った・・!」
「トモ!」
 振り返ったアヤが、自分の無事を確かめているトモに駆け寄った。
「大丈夫か!?」
 アヤの問いかけに、トモは顔を赤らめながら頷いた。アヤが思わず安堵の吐息を漏らす。
 ゼンを殺され、石化されていたトモが元に戻ったことに業を煮やした観客たちが席から駆け下り、アヤたちに迫ろうとしていた。
「トモ、ゲートブレイカーに乗れ!」
「えっ!?でも・・!」
「いいから早く!」
 トモに言い放ち、アヤが取り囲む群衆にウラヌスを構える。苛立った観客たちがそれぞれのブラッドの力を解放する。
「悪いが、そこは通させてもらうぞ!」
 向かってきた数人の男をアヤが迎撃する。剣、槍、光の弾、様々な能力を使用する客たちを相手に、アヤはウラヌスを振りかざしてこれらを打ち払う。
 次々と向かってくる男たちにも、アヤは怯むことはなかった。
「アヤ!」
 ゲートブレイカーに乗り込んだトモが、アヤに声をかける。アヤは振り返り、同じくゲートブレイカーに乗ってウラヌスを左手に持ち替える。
「一気に突破するぞ!しっかり捕まっているんだ。」
「うん!」
 トモがアヤの腰にしっかりと捕まった。それを確認して、アヤはゲートブレイカーのアクセルを切る。
 彼女たちの前に立ちはだかるように、群衆が向かってくるが、ゲートブレイカーのパワーによってなぎ倒されていく。
「門が閉まってるよ!」
「かまわん!このまま押し通す!」
 トモの荒げる声にアヤはきっぱりと言い放ち、突破するスピードを維持したまま前輪を上げる。ゲートブレイカーの突進力に、門番をしていた男2里を退かせ、閉ざされた門を突き破る。
 脅威を感じた門番に見送られながら、アヤたちはそのまま夜の街から姿を消した。

「ゼンのストリップ会場が襲撃された?」
 炭素凍結された1人の少女の頬に手を当てているブラックカオスに、レイは小さく頷いた。
「先程、破邪の剣を所持していたと思われる者が会場内に飛び込み、ゼンとオブジェ落札者を殺害、向かっていった警備や観客たちを次々と返り討ちにして逃走した模様です。」
「そうか。」
 手を離し、カオスが地下室を出て、レイもその後に続く。
「犯人を捜しますか?」
「放っておけ。ゼンとは馴染みがよかったが、私には彼と似た効果の能力を持っているし、あそこに厄介になることはほとんどなかった。その犯人はブラックナイトに間違いなさそうだが、今は捨て置くさ。」
「いいのですか!?ナイトならなおさら・・!」
 声を荒げるレイに、カオスが不敵な笑みを見せる。
「ヤツが何をしようと、私の計画に支障はない。今すべきことは他にある。人間の娘の捕獲だよ。」
「人間の娘?」
 カオスの言葉の意味が分からず、レイが疑問符を浮かべる。
「邪神の力を得るには、人間の娘を人柱にする必要がある。だが、その標的も導くための策略も見出している。世界が完全なる支配に包まれるんだよ。争いも憎しみもない、ブラッドの世界がね。」
 カオスが両手を広げて哄笑を上げる。その横でレイは心の中で強めていた。カオスへの愛着を、アヤへの憎しみを。

 ストリップ会場から抜け出したアヤとトモ。そのまま街を脱出し森を駆けていた彼女たちは、途中通り雨に降られ、トモのことを思ったアヤは近くのほら穴に入り込んだ。
 慌しくなったために衣服を調達することができず、トモは未だに一糸まとわぬ姿のままだった。
 近くにあった枝とブラッドの力を使い、焚き火をつけてトモの体を暖める。
「大丈夫か?寒くないか?」
「うん、なんとか。」
 安堵するアヤと、自分の体を抱くトモ。
「サエはどうしたの?」
「置いてきた。多分、大講堂にいると思う。」
「そう・・」
 沈痛な面持ちで頷くトモ。彼女は心に溝ができた気分を感じていた。
「ねぇ、アヤ・・」
「ん?」
「どうして、助けてくれたの・・?」
 トモの問いかけに、アヤは少し間を置いて答えた。
「私はお前の救世主、だったんじゃないのか?」
 不敵に笑うアヤに戸惑うトモ。
「でも本当は、私の楽園を守るためにお前を助けに飛び込んできたんだ。」
「楽園?」
「私がブラッドと人間の共存を望んでるということは話したよね?その鍵となっているのが、お前だ、トモ。」
「えっ?あたしが?」
「こんな私をこの世界を救う救世主だって信じてくれたときは、正直嬉しかった。」
「でも、アンタはブラッドだった。今のあたしには信じられるものがない。」
 うつむくトモに、アヤは笑みを浮かべて話を続けた。
「サエが言ってたことなんだけどさ、ブラッドの中にも人間の心を持った人がいるって。そして人間の中にも人間の心を忘れた人もいるって。結局は自分をどう在るかで、その人が人間でいられるかどうかが違ってくるんだよ。ブラッドの力を持ってしまった私だけど、それでも人間でいたいとは思ってる。」
 自らの思いをトモに話すアヤ。優しく語りかける彼女に、トモの困惑はさらに広がった。
 裏切られても自分を助けに現れた。ブラッドでありながらもそこまで想ってくれる彼女を、トモは突き放すことができなくなっていた。
「ん?どうした、トモ?」
 アヤがトモの様子の異変に振り向く。トモが顔を赤らめて震えていたのである。
「おい、トモ!」
 アヤが血相を変えて、トモの体を掴む。
「熱が出てる。こんな火だけじゃムリがあったか。」
 揺らめく焚き火に視線を向けてアヤが舌打ちする。発熱によってトモの呼吸が荒くなってきていた。
(暖めないと。このままではトモが死んでしまう!)
 トモを見つめるアヤに焦りが込み上がってくる。冷え切ったトモを助けるには、自分の体と密着させて体温で暖めるしかない。
 しかしアヤはそれを躊躇していた。その手段を使えば、自分が女であることを知らせることになる。
 トモの尋常ではない様子に見かねて、アヤは覚悟を決めた。シャツを脱ぎ、胸を縛り付けていた包帯をほどき始める。
「ち、ちょっとアヤ?」
 アヤの様子を、もうろうとした意識のトモが見つめる。彼女の前に、アヤのふくらみのある胸がさらけ出される。
「トモ、今から私の体温でお前の体を暖める。」
 そう言ってアヤはかがみ込み、トモの体に寄り添った。アヤの温もりが弱まっていくトモの体に伝わっていく。
「トモ、私は実は女なんだ。ブラッドやブラックカオスと戦うために、戒めのために胸に包帯を巻いていたんだ。」
 アヤはトモの体を優しく抱きしめた。2人の胸が、体が寄り添いあう。
 そのとき、アヤは奇妙な面持ちを感じていた。
(どうしたんだ、私は?トモに強い思いを抱いている。いったい何を求めて、何を欲しているんだ?心も体も弱りきった彼女に、何を・・)
 アヤの中にトモに対する一途な想いが込み上がっていた。トモに寄り添う時間が経つに連れて、アヤはその感情を抑えるのが辛くなってきた。
「トモ、わたし、わたし!」
 感情的になったアヤがトモからいったん体を離し、ジーンズに手をかけて脱ぎ出した。トモと同じ一糸まとわぬ姿で、アヤが再び体を寄せた。
「アヤ、ちょっと何を・・!?」
 困惑するトモに自分の体をすり寄せるアヤ。今まで見たことのない彼女の態度に、トモは戸惑いを隠せなかった。
 アヤがトモの胸に手を当てて揉み始めた。良し悪しのつかない気分がトモの中に押し寄せる。
「アヤ・・ア・・ヤ・・・ぁぁ・・・」
 トモが顔を歪めてあえぎ声を漏らす。それを確かめながら、アヤはさらにトモの胸を揉み解していく。
「どうしちゃったの、アヤ・・・いったい、何を・・・!?」
「分からない・・何をしたいのか私にも分からない・・だけど、お前に何かを求めてる・・」
 湧き上がる気持ちを抑えきれなくなっていたアヤ。そんな彼女に触発されて、トモの中に新たな感情が芽生え始めてきていた。
 トモは不意にアヤのふくらみのある胸に手を当てた。アヤが一瞬戸惑いの色を見せる。
(あたしも触れたい・・アヤの肌に・・・もっと知りたい・・救世主として信じた、アヤの心を・・・」
 トモに胸を揉まれ、アヤはあえいで横たわった。
 互いを知りたがっている2人が、互いの体に触れ合って互いの心を確かめる。
 アヤがトモの胸の谷間に顔をうずめる。さらなる快感がトモに押し寄せる。
(感じる・・アヤの息吹きが・・アヤの心が伝わってくる・・・あたしの胸を、強く貫いてくる・・・)
 顔を強く押し付けてくるアヤ。トモの背中が弓のように反れる。込み上げてくる快感に、トモは耐えられなくなっていた。
「アヤ、出ちゃうよ・・うわっ!」
 脱力していくトモの顔を、アヤは自分の胸に押し当てた。自ら快楽の海に溺れていくアヤ。
 アヤに抱擁されたことでトモの耐久力が奪われ、彼女の秘所から愛液があふれ出した。
 トモの安堵の吐息が伝わり、アヤも安堵する。トモは、アヤが愛液をあふれさせたことに気付き、思わず胸から顔を離す。
「アヤ、出てるよ・・だんだん、気分がよくなってく・・・」
 自分でも何を言っているのか分からないほど、トモは快楽に溺れていた。
 アヤが体を起こしてトモの体を見つめる。熱が下がった様子は見られないものの、彼女が心地よくなっているのは理解できた。
「ちょっと、アヤ!」
 アヤが突然、トモの秘所に顔を入れてきた。あふれてきている愛液を舌ですくい取っていくアヤ。
「アヤ、汚いよ!取り返しがつかなくなっちゃうよ!」
 必死に叫ぶトモが快感を覚えて体を震わせる。アヤがさらに顔を押し込んでくる。
 しばらく愛液を舐めきった後、アヤは顔を上げた。彼女の口から愛液が流れ落ちていた。
 あまりの快感に、トモの息遣いは弱まって、体は脱力していた。
「アヤ・・・アヤ・・・」
 意識のもうろうとしているトモを、アヤは優しく抱き起こした。そして今度はトモの顔を、愛液の出ている自分の秘所に押し付けた。
 再びトモの呼吸が荒くなり、吐息がアヤの秘所を刺激してさらに愛液を出させる。
(アヤ、あたしにもこんな・・・!)
「トモ、吸ってくれ!私の全てを知ってくれ!」
 複雑な心境のトモと、快楽の叫びを上げるアヤ。2人の心の高鳴りは最高潮に達していた。
 愛液を吸い切ったトモが顔を上げると、アヤが彼女に唇を重ねてきた。愛液の残った2人の舌がからみ合い、互いをさらなり高みへ上らせる。
 口付けを交わしたまま、アヤとトモは横たわって眠りについた。

 トモが眼を覚ますと、焚き火の火は消えていた。ほら穴の外を見ると、雨はすっかり止んでいたが陽はまだ上がってはいなかった。
 自分の体の調子を確かめると、熱は下がっていた。アヤがしっかりと抱きとめていてくれたおかげである。
「熱は下がったようだね。」
 アヤも眼を覚まし、トモに声をかけた。トモは少し戸惑いながら頷いた。
「私にすごく抱きついてきてたね。張り詰めていたのはお前のほうだったね。」
 笑みを浮かべるアヤに思わず顔を赤らめるトモ。
「あたし、こんな気分になったの生まれて初めてだったわ。自分でも出せなかった気持ちまで出せて、そしてアヤの気持ちまで分かったような気がする。」
 トモが自分の胸を押さえてアヤに笑顔を見せる。
「何だか、アヤに抱かれたら、今まで抱えてた嫌なことみんな熱と一緒に吹き飛んじゃった。病は気からってそういうことなのかな・・・」
 トモは心の底に溜まっていた泥のようなものがなくなったような気持ちになっていた。安らぎが彼女の心を満たしていたのである。
 アヤはそんなトモを優しく抱きしめた。その抱擁に、トモはさらに安らぎを感じていた。
「今の私の楽園は、お前のいる場所だよ、トモ。」
「あたしの?」
「私はブラッドと人間の共存を望んでいる。ブラッドである私を受け入れてくれたお前は、そのかけ橋になってくれると信じてる。」
 アヤの率直な気持ちを受けて、トモがアヤの体を優しく抱き寄せる。一糸まとわぬ2人の肌が触れ合う。
「あたしも、アヤを信じたい。この世界を救う救世主だとも思ってるし、心のより所としてもあなたを信じたい。」
「トモ・・・」
 自分を信じてくれるトモの言葉に、アヤは今までにない喜びを感じていた。
 ブラッドになってしまった彼女は、その忌まわしい力のために、かつての親友や親族に見限られた。孤独の道を強いられた彼女にとって、これほどに信じてくれるトモの存在が、アヤにとってかけがえがなかったのである。
「あなたは自分の楽園を見つけたみたいだけど、あたしはまだ楽園を見つけてない。というより、自分の楽園を取り戻してないのよ。」
「トモ・・・そうだな。お前の楽園は、あのときのまま止まっていたんだったな。ブラックカオスの力が消えない限り、その時間凍結は解けない。」
 アヤがトモの頭を優しく撫でる。トモは自分がまるで子供に戻ったような心地に陥った。
「取り戻そう。お前の楽園を。」
「えっ・・?」
 アヤの言葉にきょとんとなるトモ。
「私は自分の楽園を見つけることができた。お前のそばにいることが、私にとっての楽園だ。お前の楽園は、凍てついたかつての仲間たちのいる大講堂。自由を取り戻したあの場所を、私も見てみたい。」
 そう言ってアヤはトモを抱く腕にさらに力を込める。苦しいはずなのに、トモは悪い気分を感じなかった。
「お前が自分の楽園を取り戻して、本当の笑顔を見せてくれるのを、私は望んでる。だから私と一緒に、お前自身の楽園を見つけよう。」
「アヤ・・・あたし・・あたし・・・」
 トモの眼から大粒の涙がこぼれた。
 自分のために命がけの戦いに身を投じてくれるアヤに、トモはこれ以上ないほどの歓喜を感じていた。
「あたし、戦うわ。そして止まったままの時間を再び動かして、帰るんだ。あたし自身の楽園に。もちろん、アヤも一緒だよ。」
「ありがとう、トモ・・・」
 そして2人は再び横たわって、互いの肌に触れ合った。快楽を感じながらの抱擁を続けて、決意を新たにした2人の長い夜は明けた。

つづく


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