作:幻影
「行きなさい、ケロロンZ。」
玉緒の指示で、ケロロンZがますみに向かって舌を伸ばす。
「わっ!」
ますみは慌ててそれを回避する。
「ますみ、君がスキャップの力を受ける分には大丈夫だ。スキャップを覚醒させた人は、他のスキャップの力を受け付けない。」
「わ、分かってるけど・・うわっ!」
クラウンの声に答えていたますみが、ケロロンZの舌に右足を捕まえられ、そのまま吊り下げられてしまった。
「ますみ!」
「うわぁ〜!下ろせ〜!下ろしてよ〜!」
叫ぶクラウン。宙ぶらりんのままわめくますみ。
「フフフフ、いい気味ね。そのまま落としたら、どんな痛々しい顔を見せるのかね?」
玉緒が微笑を浮かべて、視線を下に向ける。ますみをそのまま地面に叩きつけるつもりだ。
しかしそうしようとしてそれをやめ、ケロロンZを跳躍させた。
「捕まってるにもかまわずに攻撃させるなんて、ずい分荒っぽいやり方ね。」
玉緒がますみにさらなる微笑を見せる。彼女は逆さまにされ続けたことで頭に血が上り、眼を回していた。
ケロロンZが叩きつけようとした直前、クラウンが石化の効果をもたらす光の玉を発射してきていた。ケロロンZは跳び上がってこれをかわした。
仮にますみに当たっても、その効果は受けない。彼女はそれを考慮して、クラウンに攻撃させたのである。
「まぁいいわ。じゃ、まず先にあのスキャップを狙うとしようか。」
標的をクラウンに変えた玉緒。ケロロンZが舌を緩め、ますみを解放する。
力なく地面に落ちるますみ。混乱する頭に手を当てながら、ゆっくりと起き上がる。
「身をもって知ることね。スキャップが破壊されたらどうなるか。」
玉緒の意思で、ケロロンZがクラウンに向けて咆哮をあげる。ブロンズ化をもたらす液をかけるつもりだ。
ますみはクラウンに意識を伝えようとする。しかし頭の混乱がまだ治まらず、思うように伝わらない。
「今度こそサヨナラね。」
勝ち誇って笑みを見せる玉緒。
そのとき、液を吐き出そうとしていたケロロンZの体が突然光に包まれた。
「えっ!?」
「何っ!?」
何事かと驚愕するますみと玉緒。彼女たちの眼の前で、光に包まれたケロロンZの体が徐々に小さくなっていく。
そして光が治まると、小さくなったケロロンZが地面に横たわっていた。
「ケ、ケロロンZ・・・!?」
何事か分からないまま、玉緒が体を震わせる。ますみが眼を凝らして、ケロロンZを見る。
「人形?・・ぬいぐるみみたいになってる・・・」
彼女の言葉のとおり、ケロロンZはぬいぐるみになっていて、微動だにしなくなっていた。
「水を差して悪かったな。だがお前の茶番もこれで終わりだ。」
そこへ声がかかり、ますみと玉緒が振り向く。そこには藍色の髪の少女と、彼女ほどの大きさのぬいぐるみのようなウサギが立っていた。
「ハルちゃん!」
ますみがハルに声を上げる。ハルは真剣な眼差しを玉緒に向けている。
「あなたが・・あなたがこんなことを・・・!」
玉緒が憤慨し、ハルに剣幕を見せる。しかしハルは表情を変えない。
「お前は私が探してるスキャップではない。だが、一応お前を始末させてもらう。」
そういうとハルは、人形と化したケロロンZを踏みつけ、地面にこすり合わせた。するとケロロンZの首が割れ、中から綿くずが飛び出してきた。
「ぐっ!」
その直後、玉緒に苦悶の表情が浮かび上がる。立ったまま悶え、その場をふらつき始める。
そして突然、彼女の足が緑色に染まり始めた。
「な、何アレ・・!?」
ますみは眼を疑った。人々をブロンズ像にしていた玉緒が、今そのブロンズ化に体を蝕まれ始めていた。
「そんな・・そんなことって・・・!」
玉緒の顔に恐怖が広がる。ブロンズ化はさらに彼女の腰に到達し、さらにせり上がってくる。
信じられない面持ちのますみが、ハルに振り向く。
「よく見ておくんだ。スキャップを破壊された人の末路を。」
「えっ!?」
変わりゆく玉緒を見つめながら、ハルが続ける。
「スキャップを覚醒させた人は、他のスキャップの効果を受けなくなる。しかし、自分の扱うスキャップが破壊されると、そのスキャップの効果がその人自身を蝕む。」
「それって・・・!?」
ますみがさらに驚愕し、ハルに踏み潰されたケロロンZを見下ろす。
「破壊されたスキャップを使う人は、その効果で固まる。そしてそれは、その人自身でも解くことはできず、生きることも死ぬことも許されないままその場に留まる。もっとも、その人の力を受けていたものは、その人の意思で元に戻すことも可能なのだが。」
「じゃ、クラウンが破壊されたら・・・」
ますみは困惑しながら、恐怖を顔に焼き付けたまま固まっていく玉緒を見つめた。
「いや・・・やめ・・て・・・」
必死に振り絞られる玉緒の悲痛の声。その願いが聞き入れられることなく、彼女は完全なブロンズ像となった。
その姿を見つめてハルが、
「アイツの二の舞・・お前のスキャップの効果が、お前自身の体を蝕む。」
ますみはその言葉に恐怖を感じる。クラウンが破壊されれば、その効果である石化が彼女を固めてしまう。
「だから、もうスキャップは出すな。それがお前のためだ。」
ハルはボロボロになっているケロロンZの人形を見下ろす。そして何も言わずに振り返り、その場を後にした。
「あたしが・・・石になる・・・!?」
完全に困惑してしまったますみ。立ち去るハルの後ろ姿を見つめることしかできなかった。
「あんまり気にしないほうがいいと思うよ。」
そこへ声がかかり、ますみは不安の表情のまま振り向く。1本の木の枝の上に、ピンクの髪の少女が彼女を見下ろしていた。
「要するに破壊されなければいいんだよ。そうすればスキャップの力は使い放題。何もかも思いのままだよ。」
「デュールちゃん・・・」
微笑むデュール。戸惑うますみ。
デュールが右方向に視線を移す。その先の草原には、1匹の巨大な動物がいた。
ピンクの色をした、人ほどの大きさの河馬だった。デュールが指を鳴らすと、その河馬は口から桃色の霧のようなものを吐き出してきた。
霧はゆっくりと草原の草花を包んでいく。そして霧と同じ桃色に変色して固まっていく。
「これって・・・!?」
「そう。これが私のスキャップ、メルディ。口から吐く桃色吐息で、吹きかけた相手を石にする。君のスキャップと似た力だね。」
無邪気な笑みをますみに見せるデュール。彼女の言葉どおり、桃色吐息に触れた草花がピンクの石に変わってしまった。
「君のスキャップは君自身のものだよ。あんまり周りに振り回されるのもよくないよ、ますみん。それじゃ。」
デュールは桃色吐息の漂う草原に降り立ち、そのまま姿を消してしまった。彼女のスキャップ、メルディも。
ますみは困惑を拭うことができないまま、一路寮に戻っていった。
(もうっ!どうしてそんな重要なことを言わなかったのよ!そういうのは最初に言っておくもんだよ!)
寮に戻る途中、ますみは胸中で苛立っていた。愚痴は全てクラウンに対するものだった。
(いや、君のためを思えばこそで・・・)
彼女の心の中にいるクラウンが言葉を探す。完全に戸惑ってしまっていた。
(もしもあなたが破壊されちゃったら、あたし、ず〜っと石になったままなんだよ!)
(・・それが全てを賭けるってことだよ。)
困惑するクラウンの言葉に、ますみの苛立ちが揺らぐ。彼女はスキャップを覚醒する直前に彼に言われたことの意味を、今はっきりと理解したのだった。
スキャップの使用と戦い。それに敗れればその効果が自身に及び、全てを失う。生きることも死ぬことも許されず、永遠に固まったままとなる。
憤りを感じながらも、それをぶつける相手を見失い、ますみは落胆しながら自分の部屋に戻っていった。
「ただいまぁ・・」
「おかえり、ますみ。あれ?どうしたの、元気ないじゃない?」
帰ってきたますみの様子に眉をひそめるユキ。
「うん。ちょっとね・・」
ますみは何とか笑顔を作る。ユキに心配かけまいと必死に普段を装っていた。
「そう?・・何かあったら、私に相談して。私にできることなら、ますみのために頑張るから。」
「ユキちゃん・・・」
ユキの言葉に励まされ、ますみは次第に安らぎを感じ出していた。
徐々に遠ざかっていく日常。そんな中で彼女の暖かな言葉は本当にうれしく思えた。
「じゃ、今日は私が料理を・・」
「うわ〜!いいよ、あたしが作るから!」
腕によりをかけようと意気込むユキをますみが呼び止める。調理だけでも彼女は不安に思えてくる。
エプロンをかけたますみに対し、ユキは腑に落ちない気分を感じていた。
そして翌日。
ますみは寝起きの悪いユキを引っ張りながら、駆け足で校舎に向かっていた。
「そんなに急がなくても、1時間目までまだ時間あるよ〜。」
ユキが寝ぼけ眼でますみに声をかける。
「たまには朝早く学校に行くのも、悪くない気分だと思うよ、ユキちゃん!」
「いいよ〜。それなら1分でも睡眠の時間を・・・」
元気を見せるますみに、ユキは寝る時間を要求していた。しかし彼女には通らなかった。
しかし校舎にたどり着く直前、ますみは足を止める。
「ち、ちょっと、急に止まんないでよ〜。」
ユキも文句を言いながら立ち止まる。ますみは空手部の道場を見ていた。
そこでは幻が1人、空手の稽古をしていた。その日は部の朝練はないにも関わらず、彼は特訓に励んでいた。
ますみはそんな彼のいる道場の前に近づいていく。
「朝練じゃないのに、頑張ってるんだね、幻ちゃん。」
彼女のその呼びかけに、幻は稽古を中断して振り返る。
「そういうお前こそ、早く来てるではないか。部活の朝練か?」
「ううん。部には入ってないから。」
幻の問いかけに首を横に振るますみ。
「適度に体を休めるのも練習のうちということで、今日は朝練はないのだが、オレはこうして特訓していたほうが気が楽になる。」
「えっ?気が楽に・・?」
「強くあろうとする気構えが、オレにそんな気分を与えているのかもしれないな。」
幻が不敵な笑みを浮かべる。彼は人の強さの限界を知ろうとする一面を持っていた。
人はどこまで強くなれるのか。その果てを確かめるため、彼は日々精進していたのだ。
「ねぇ。ちょっと聞いてもいいかな?」
「ん?どうしたんだ?お前らしくない態度だな。」
悲しい笑みを浮かべながら聞いてくるますみに、幻が眉をひそめる。
「もし、すごい力が手に入ったら、どう思う?普通の人が持つようなものじゃない力が・・・怖いって思ったりする?」
その問いかけに、幻はしばし考えてから答えた。
「確かに未知の力ならば、臆しないといったらウソになる。だが、それが己の力ならば、最後にはそれを受け入れるだろう。」
「受け入れる・・?」
「ああ。勝負とは眼の前にいる相手だけが敵というわけではない。常に己自身が敵となる。勝負する相手と戦うにふさわしい己であるか。それが己との戦いということだ。」
幻は握り締める自分の拳をじっと見つめながら語る。もしも自分に強大な力があったなら、それが自分の力ならそれを受け入れる覚悟を秘めていた。
「しかし、なぜそんなことを?」
「えっ?・・う、ううん、何でもないの。ただ、聞いてみたかっただけ・・」
ますみは笑みを作って、首を横に振る。すると幻も笑みを見せる。
「そうか・・・迷うことは構わん。だが、どの道を選ぶか、己の持てる力をどうするかは、常に己自身が決めることだ。」
幻は再び構えを取り、集中力を高める。その真剣さをますみは感じ取っていた。
「この空手の道を選んだのは、他ならぬオレだ。最後まで己を保っていた者が、真の勝利者となるのだ。」
幻の気構えに、ますみは心を打たれていた。彼女は自分の中にある力、スキャップを、クラウンを受け入れた。
クラウンの力を覚醒する際、全てを賭けるという彼の押す念を彼女は受け入れた。つまりクラウンは彼女の力であり、彼女自身である。
だから、スキャップの力の使い道は、彼女が決めるべきことである。
「・・ありがとね、幻ちゃん。何だか、心の中にあったモヤモヤが消えたみたい・・」
「そうか・・・」
幻は小さく呟き、再び稽古を開始する。
「練習、頑張ってね!」
ますみは笑顔で手を振り、振り返って校舎に走っていった。
その日の放課後、ますみは1人、屋上に来ていた。
「クラウン、クラウン・・?」
彼女はクラウンを呼び出した。その声を聞いて、白ずくめの少年が姿を見せる。
「クラウン、あたし、あなたを受け入れるよ。あたし自身として。」
ますみの言葉にクラウンが耳を傾ける。
「このスキャップの力がどういうものなのか、まだ分からないことだらけだけど、あたしの力として、あたしのしたいことのために使う。そのために全てを賭けれるなら、あたしは構わない。」
ますみは首を振ってから、ただじっと見つめているクラウンに戸惑いの眼差しを向ける。
「だから、あたしに力を貸して、クラウン・・・」
ますみの心からの願い。彼女の決意は固まった。
その言葉を聞いたクラウンが、無邪気な笑みを浮かべる。
「私は君のスキャップ、君の分身さ。だから私の力をどう使うかも君が決めればいいよ。」
「ありがとう・・・これからもよろしくね、クラウン。」
「こっちこそ、ますみ。」
互いに手を差し出し、握手を交わすますみとクラウン。その手は確かに触れ合い、2人の心をつなげていた。
「それじゃ、気を取り直して、もう少し練習してみようか。」
「うん、やってみようね!」
クラウンの言葉にますみは元気よく頷き、石化の練習を始めるのだった。
人気のない夜の小道。そこを1人の女子高生が走っていた。
彼女は部活を終え、友人たちと帰路について駅で別れていた。そして家に帰ろうとしていた彼女。
その途中、彼女は異様な何かを目撃して、思わず逃げ出した。さらにそれに追われている気配を感じて、必死に逃げ惑っていた。
長い黒髪が大きく揺らめき、頬には汗が伝っていた。そんなことにも構わずに、彼女は夜の道を駆け抜ける。
そして曲がり角に滑り込み、そこで足を止める。大きく息を荒げながら、駆けてきた道を角からそっとのぞき込む。
人の姿や何かの影も形も見られなかった。彼女は安堵して、再び足を前に出そうとした。
そのとき、彼女は背後に気配を感じて、恐る恐る振り向いた。そこには先程会った異様な物体、半透明の水晶が宙に浮いていた。
「イ、イヤァ!」
悲鳴を上げる女子高生。その眼前の水晶の中心に、不気味なひとつの眼が出現する。その眼が彼女にさらなる恐怖を植えつける。
水晶の眼から、同じ半透明の光線が発射され、彼女の胸に命中する。付着したその光は一気に広がり、彼女の体を包み込んでいく。
全身を完全に包んだ光が消えると、女子高生の体は水晶と同じ質の半透明となって動かなくなっていた。恐怖を浮かべた表情のまま、固まって微動だにしなくなっていた。
「ンフフフ、またクリスタルガールの完成ね。そのかわいさに美しさという箔がついた。」
そこへ1人の女性が歩み寄ってきた。長い白銀の髪の大人びた女性である。
女子高生を襲った水晶は、その女性のスキャップだった。現れる一つ目から放たれる光線は、当てた相手を包み込み同質の水晶に変えてしまう効果があるのだ。
「この怖さを思い起こさせるような表情もなかなかね。これもまた美しさのひとつ。」
女性は固まった女子高生の半透明の頬にそっと手を当てる。滑らかになったその頬の手触りに喜びを感じていた。
「その感触、その透き通るようなきらめき。クリスタルは最高の美の象徴だわ。そのクリスタルに彩られて、この子も喜んでいるはずだわ。」
至福の喜びを感じる女性。水晶化した女子高生にしばし魅入られた後、彼女は自分のスキャップに視線を移す。
「あなたのおかげで美しさが際立っていくわ。これからもよろしくね、クリス。」
自分のスキャップ、クリスに感謝の言葉をかける女性。クリスはその眼を閉じ、音もなく姿を消した。
Schap キャラ紹介3:青葉ハル
名前:青葉 ハル
よみがな:あおば はる
年齢:16
血液型:A
誕生日:2/25
Q:好きなことは?
「ツーリング」
Q:苦手なことは?
「人の多い場所にいること。あと、家事全般。」
Q:好きな食べ物は?
「栗」
Q:好きな言葉は?
「行雲流水」
Q:好きな色は?
「藍色」