マジカルヒロインズ 石化館の罠 間章

作:狂男爵、偽


「よくぞここまで辿り着いた、だが貴様らの希望はここで潰えることになる、なぜなら…(以下略)。」
 鬱蒼とした森のはずだった。
 いくら巧妙に隠されていたとしても、魔法会の支部の近くで怪人の本部が出現したからには、対怪人部隊は江梨香達が洋館に入ったころには森の中に突入していた。
 だが、一同の進軍は否応なしに遅らされていた。
「「隊長〜!?」」
「あー、もー、分かった!分かった!ここはあんたにまかせるわ、未来は私達にまかせて頂戴、じゃあ、また後で。」
 そう言って、まだ長口上が続く下級怪人の前に、エッ!ワタシ!!?という感じで自分の顔を指さすショートの華奢な体つきとした女性隊員が、下級怪人の前に突き出されると次の扉が開いた。
 そういう仕掛けらしい。
 彼女を残して一同が廊下に出ていくと扉が閉まり、先ほどの下級怪人の奇声付きの轟音と女性隊員の泣き言交じりの銃声が鳴り響く。
 そう、いつの間にか森は延々と交互に続く回廊と小部屋に変貌していた。
「こんな見え見えの時間稼ぎしてくるってことは、あの仮面が本命ってことでいいのな。」
 回廊の小窓から見える洋館を見ながら、とびぬけて可愛い容姿をしている癖に妙に印象の薄いセーラー服の少女がうんざりした顔で呟く。
「だとすると、急がないといけませんね、あの仮面がそれほどの力を秘めているとしたら、江梨香様でも危ういやもしれません。」
 横に並んで歩いている、厳めしい顔と体つきのがっしりしたいかにも前線叩き上げの対怪人特殊装備の軍人が頷いた。
「そうだよねー、犠牲者が怪人の餌食になれば怪人の本部がまた見えなくなって、間抜けな連中が雑木林でぞろぞろして突っ立ってるって悪評が立って、また上の連中がうちの予算を削るかもしれないしねー。」
 その間抜けな連中に自分も入っているとは思えないほど、少女の言い方はかなり他人事のようにそっけなかった。
 だが、隣の軍人は特に気分を害した様子もなく、信頼に満ちた顔で彼女を頼りにしている様子だった。
 実際のところ対怪人部隊に出来ることは、怪人を見つけて包囲して可能な限りで有効な攻撃をすることしかできない。
 それも、対象の怪人の情報の収集がすんでいて、事前に準備が整っていて、相手が一定以上のレベル以下と様々な条件が必要になる。そのほとんどの条件を、セーラー服姿の少女が一人でなんとかしてくれるのだ。
 魔法少女の力を使って!!
「やっとこの陣形の構図の全体がつかめた、次で最後だよ!」
 そっけない様子だった少女の顔に、明るい表情が浮かんだ。
 少女の言葉に魔法の力が籠められていて、周りの回廊とさっきと同じような目の前の扉が煙のように崩れ、すぐ近くに大理石にされた哀れな双子の少女の石像がそれぞれの門柱に飾られた大きな門が見えた。
 疲労の色を見せていた隊員達の間で軽く歓声があがった。
「キョキョキョキョキョ、お待ちしておりましたよ、皆様の歓迎の準備は整っております、さあどうぞお楽しみください。」
 だが奇妙な声とともに、洋館の門を残して周りの風景が突然大きな壁になって一同を囲んで閉じ込めた。
 そして、石に変えられた双子の少女の像が飾られた門の前には、悪夢の森に出てくるねじ曲がった木の枝のような体つきの老人のような姿の怪人が立っていた。
「だから、次で最後っていったでしょ、ほらこいつをやっつけたら江梨香ちゃん達と合流出来るよ。」
 動揺する隊員達の先頭に立った、セーラー服の少女がそっけない口調で呟くと隊員達はそれぞれ武器を構え怪人に狙いを定めた。
「では皆様のご指名にお応えして、私めがつまらない芸をお見せしましょう。」
 怪人が大仰な素振りで両手を広げた。
 反射的に隊員達が引き金を引こうとするのを、少女と隣の隊長らしい軍人が素早い仕草でで止めた。
 途端、怪人の周りに木製の間接が球体で目がプラスチックか何かの人形が大量に空から降って来るように現れた。
 人形達の姿を見て、再び隊員達の間に動揺の声が上がった。
「やっぱりね、そういうことじゃないかと思ってたわ。」
 その人形の中には、今までの部屋で現れた下級怪人と対処を任せた隊員たちの変わり果てた姿もあり、先ほどのショートの女性隊員も頬に涙の絵が描かれた人形として混じっていた。
「どうしますか、見たところ例え怪人の操り人形とはいえ木製の人形です、火力で十分圧倒できる自分は考えますが?」
 隣の軍人の皮肉にセーラー服の少女は少し顔をしかめて指示した。
「躊躇している時間はないわ、人形は通常弾で足止めしといて、その間に私があの怪人を倒してくる。」
 そう言って、セーラー服の少女はわらわらと不気味な踊りのような動きで怪人の周りで蠢く大量の人形に向かって無造作に歩き出した。
「各員、装填を通常弾に変更、のち隊長の援護射撃をしろ!」
 軍人は先ほどのセーラー服の少女の指示を部下に伝達した。
 隊員達は戸惑いながらもカートリッジを入れ替え、先頭の軍人の合図とともに一斉に人形に向かって射撃を開始した。
 近づく少女を取り囲もうとした人形達は叩きつけられる無数の銃弾に表面にヒビ一つ入らなかったたが、容赦なく降り注ぐ弾丸の勢いに押さえつけられて幾分か動きが鈍くなった。
 その隙に少女は怪人の前に向かう。
「お主の噂は儂も聞いておる、正体不明の魔法少女よ、今宵はその正体を暴いてやろう。」
 ただの早歩きに見えて、まったく隙のないセーラー服の少女を怪人は見据えて顔に深く刻まれた無数の皺の中から不気味に光る目薄く開き、粘液をたっぷり含んだ口を蠢かせながら、木の枝しか見えないやせ細った腕から糸のようなものを飛ばした。
「あんたの相手をしている暇はないの、さっさとそこどいて。」
 全身に糸が絡みついた少女が怪人に近づくと、もはや怪人は危険を感じないのか、人形が少女の前から退いた。
 目の前に出来た道を少女は身体にまとわりつく糸を特に気にした風もなく、小走りで怪人の目の前まで歩いた。
「キョキョキョキョキョ、そうはいかぬ、お主はこれから儂の道具として役に立って
 もらわねばならぬ、性能が分からないままでは不便でならないからのぉ〜」
 糸に絡みつかれた部分から少女の制服は裂け、特に特徴があるわけでもないが、妙に瑞々しい少女の裸体が、パキパキと音を立てて瑞々しい肌が磨かれワックスをかけたほどの艶やかな木の彫刻のようになり、間接は周りの人形と同じように球体に変わってゆく。
 怪人の前に踏み出した右足の革靴を絡みつく糸がカマイタチのように裂いて素足が一瞬さらけ出されたかと思うと、間接が球体の木製の脚に変わる。
 残りの足を前に出して、怪人の前に立つころには少女の身体は、首から下が全ての間接が球体の木製の人形と化した。
「耄碌したもんだね、目の前の脅威にすら気がつかないのかな、怪人ゲペット。」
「フム、我が真名を知っておるか、だが結界をはってももう遅い、お前さんの身体はほとんど儂の…グガッ!!」
 いきなり怪人の枯れ枝のような身体を、何故か間接が球体になった人形に変わり果てたはずの少女の手が掴んでへし折った。
「貴様…力は……、……そ……こ、とじゃ……か…、…が…遅い、我らの…。」
 胴体をへし折られた怪人の身体は何かを呟きながら、砂のようになって崩れた。
 途端、その場にいた隊員達は頭に電気が走ったようなイメージが浮かび、射撃をやめ全員が起立をした。
 人形達も奇妙な踊りのような動きを止め、全部がばたりと倒れ込んだ。
「全く無茶をして、貴方がやられたら我々は全滅ですよ、もう少し他のやり方はなかったんですか。」
 幸いにしてガーター?達はすべて倒されていたのか、本当に無防備な裸をさらす少女の周りで倒れ伏した人形から元の姿を取り戻したもので、隊員達だけが息をしていた。
 あらかじめ用意していた着替えの体操服を持って、数人の女性隊員を引き連れながら先程の軍人が少女に走り寄っていく。
「言ったでしょ、躊躇している暇なんかないって、私の魔力はすぐに回復するのよ、休んでいる暇なんかないの!さっさと行くよ。」
 特に恥じた様子もなく裸の少女は軍人から体操服を受け取って、周りを囲む女性隊員と軍人に特に礼を言うでもなくさっさと着替え門に向って歩き出した。
 途端、目の前の洋館から清浄な光が溢れた。
「しまった!!江梨香の奴、なんで切り札は取っておかないのよ!!」
 魔法少女達の勝利を確信して立ち止まって歓声を上げる隊員達を余所に、少女は舌打ちをして、いつの間にか閉まりかけていた門の中へ向かって猛然と走りだした。
「いったい、なにが起こったんですか!隊長!?」
 突然の異変に、軍人は厳めしい顔に似合わぬ動揺を浮かべ叫んだ。
 その時、扉が音を立ててしまった。軍人には扉が閉まるのと、その間に少女が入り込むのが同時に見えた。
 だが、すぐに辺りの風景はただの雑木林に変わった。
 そのため軍人には確認できなかった、少女が間に合ったのか、それとも……。
 頭に浮かんだショッキングな風景を軽く頭を振って消し去ると、軍人はまだ動揺の解けない部下たちに号令を出して、最低限の見張りを残しての帰還の準備を指示した。
 怪人の本部の場所が判明したが、怪人に招かれずに入るには今度はこちらから召喚しないといけないため、高位の術師による複雑な儀式が必要になる。
 だが、召喚に成功しても軍人の悪い予感が的中していた場合は、こちらの戦力での対処は難しいかもしれない。
 その時、最悪この街は上層部のジンソクナハンダンによって処分されてしまうだろう。
 だが、軍人はすぐに割り切って本部への連絡を指示した。

続く


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