カタメルロワイヤル第12話「風花」(後編)

作:七月


「アリスさん・・・どうしてここに・・?」
早苗は自らの背後に現れた少女に向かって言う。
アリス・マーガトロイド。七色の人形遣い。そして、森エリアでティアナたちの敵だった人物。
それが何故今ここにいるのか。
(ってそういえば・・・)
早苗は思い出した。だいぶ前に入った放送によれば、確か森エリアが封鎖されたとのことだ。
それでこっちのエリアに来たのだろう。
(でも、どうして助けてくれたんでしょう・・・)
さっきの銃弾を防いでくれたのはおそらくアリスの人形だろう。
(私たちは敵だったはずなのに・・・)
早苗がそんなこと考えていると、
「きーっ!何なんですの!あなたは!」
沙都子が突然の乱入者を指差しながら言った。
そしてアリスは
「ほら、早苗早く武器を構えなさい。手早くあの子を倒すわよ。」
「は、はい!」
「キイイッ!無視するなですの!」
無視された沙都子は顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいた。
「ふん、まあいいですの!一人増えたところで、この私の数々のトラップの前にはなんと言うこともありませんわ。」
「一人・・・?」
あら?とアリスは意味ありげな笑みを浮かべる。
「一人だけど数十人力よ。」
アリスが手をかざすとどこからとも無く人形の群が現れた。
それらは辺り一帯を縦横無尽に駆け回る。
「こ・・こらそこは!」
沙都子の静止も聞かずに走り回る人形達は、次々と沙都子の仕掛けたトラップを作動させていった。
剣が飛び出し、銃弾が打ち出され、地面にぽっかりと落とし穴が開き、どこかで爆音が響き・・・
「ア・・・アリスさん!流れ弾がこっちに!ああ、何か頭をかすりました!」
「それくらい自分でよけなさい。」
「ひえええっ!?」
早苗は流れ弾から身を守るのに必死だった。
やがて一通り人形達が走り終わると、あたり一面にはすでに作動し、役目を終えたトラップたちの残骸が溢れていた。
「さて、まだトラップは残っているのかしらね?」
「おほ・・・ほほほほほ・・」
この変な人形達のせいで、あれだけあったトラップが全部無くなってしまった。
沙都子はアリスの問に笑うしかなかった。
頬には滝のように冷や汗が流れている。
「さてと・・早苗、あなたが決めなさい。」
「は・・はい!」
「ひっ!」
アリスの呼びかけに早苗が沙都子をめがけて走り出した。
早苗の手に構えるのはマシンガン、沙都子の銃では太刀打ちできない。
「くらいなさいーっ!」
「きゃーっですのーっ!」
早苗が沙都子に向けて引き金を引いた。しかし、
カチン
「・・・・・・あれ?」
「・・・・・・あら?ですの。」
カチン、カチン
「あれ、弾が出ないです?」
「早苗・・・ちゃんと安全装置解除したのかしら?」
「ああ!忘れてました!」
「ほーほっほ。ばーかばーかですのーっ!」
「ああ!逃げました!」
ここぞとばかりの沙都子は逃げ出した。
「まってくださいー!」
それを早苗が追いかける。
「ほーっほっほ!待てといわれて誰が待・・・」
ピーン、と何かが沙都子の足に引っかかった。
その場場バランスを崩し倒れこむ沙都子。
「ふぐっ・・・なんですのー!?」
見れば沙都子の足の近くで2体の人形が細い糸を持って道の両側に立っていた。
どうやらアレに転ばされたらしい。
「ってそんなこと考えてる暇ないですわ!」
早く逃げないと・・・・
「追いつきましたよ!」
早苗はすぐ後ろまでやってきていた。
「今度はミスしません!行きますよー!」
「いやあああ!ですのー!!」
ガガガガガガガガガ
「いやああああっ!」
早苗の持つマシンガンから大量の弾丸が放出され、それらは容赦なく沙都子へと降り注いだ。
無数の弾丸を受けた沙都子の体は瞬時に氷に包まれていく。
バキバキ音を立てて凍り付いていく沙都子。
沙都子は、立ち上がる暇も無く全身凍結してしまった。
氷像となり、動かなくなった沙都子を前に早苗は言った。
「・・・・ふう、快♡感!
とか言うと女子高生らしいんじゃないかと思います。」
「昭和時代だけどね、それ。」
呆れた顔でアリスが突っ込んだ。



「手を貸そうかって・・・?」
いきなりの事態にレイミは困惑していた。
見ず知らずの少女が突然姿を現して自分に救いの手を差し伸べてくれている。
「えっと・・・ティアナさんのお知り合いですか?」
「ん?・・・ああまあ・・・そんなところ?」
「はあ・・・」
ティアナさんの知り合いなら信用してもよいのだろうか?というかそもそもスノーゴンにレイミ一人の力では勝てそうには無い。なので手助けはとにかくありがたい。
「お願いします。力を貸してください。」
「オーケーオーケー!任せな。」
そう言って魔理沙はどこからとも無くバズーカ砲のようなものを取り出した。
「どっから出したんですか・・・?」
「ふふふ・・・私のスカートの中は夢がいっぱいなのさ。」
「・・・・」
レイミは深く聞かないことにした。
「まあとにかく、あいつにたいていの攻撃は効きそうに無いからな。こいつで一発で仕留めるぜ。だからえ・・・っと誰だっけ?」
「レイミです・・・っと誰でしたっけ?」
「霧雨魔理沙だ。じゃあレイミ、30秒ほど稼いでくれ。そしたら私がこいつであの怪物を仕留める。」
「了解、まかせて。」
レイミはスノーゴンへと向かって走り出した。
(30秒・・・なかなか難しいわね。)
気がかりなのは凍り付いてうまく動かない右足だ。棒のように固くなってしまった右足で不恰好に走りながらレイミは思う。
だけどやってみせる。
相手は小回りが効かない大型の怪物だ。懐にもぐりこめば何とかなる。
「仲間を呼ぶなんてずるいよ!」
スノーゴンの上からリディアの声がした。
「これで2対2だから丁度いいでしょう?」
「むう・・・ゴン!やっちゃって!」
リディアの命令を受け、スノーゴンが大きく腕を振るってきた。
横薙ぎに振るわれたそれをレイミは姿勢を低くし、スライディングの体勢で回避すると共にスノーゴンの懐にもぐりこんだ。
(よし!)
スノーゴンはレイミから距離をとろうとするがレイミはぴったりとそのそばを離れない。
「さあ・・・勝負よ。」



「うわ・・すごいなあの娘。」
武器のエネルギーをチャージしながら魔理沙はその様子を見ていた。
あの巨大な生物がたった一人の少女相手に翻弄されている。
レイミはスノーゴンの足元にぴったりと張り付き、スノーゴンの動きを狂わせていた。
相手が距離をとろうとすればぴったりとくっつき、腕で体を掴もうとしてくるなら即座に怪物の周りを回ることによって回避。相手が蹴りをしてこようものなら・・・
「はっ!」
蹴りをかわし、怪物のもう一方の足に体当たりして怪物のバランスを崩し、あの巨体を地にひれ伏せさせた。
(しかもそれを右足凍りついてるのにやってるのがなあ・・・)
彼女のフットワークの軽さは凄まじい。と魔理沙は思った。
(・・・あの尻も・・・すげえよなあ・・・)
動くたびにゆれるレイミの大きな尻を見て、アリスがいたら今頃魔理沙は半殺しにされているだろうことを考えていた。
「っと、もう30秒か。
レイミそいつのそばを離れろ!」
「はいっ!」
レイミは最後に大きく跳躍。スノーゴンの眼前に迫ると
「てやっ!」
凍りついた右足でスノーゴンの鼻面を思いっきり蹴っ飛ばした。
凍って固くなったレイミの右足がスノーゴンなお顔に大きくめり込んだ。
ギャアアアアアアアア
痛みにたまらずスノーゴンの悲鳴が響き渡る。
「どうです、毛皮に覆われていないそこは痛いでしょう。」
レイミは蹴った勢いでスノーゴンから離れながら言った。
「魔理沙さん、今です!」
「おう!発射10秒前!9!8」
ドゴォ
「え!?」
魔理沙のバズーカ砲から巨大なビームが放たれた。
それは一直線にスノーゴンへ進み、直撃した。
ゴアアアアアアア
「きゃあああああっ!」
直後にスノーゴンを中心として凄まじい爆音と爆風が発生し、宙にいたレイミを巻き込んだ。
そのままレイミは魔理沙の近くへと吹き飛ばされる。
「きゃっ!」
「おう、お帰り。」
「い・・今8で発射されたよね!?」
「ん・・まあ・・良くある。」
「良くあるの!?」
「そ・・そんなことよりほら、敵がどうなったか確認しないと!」
「なんか釈然としないけど・・・そうしましょう。」
レイミと魔理沙はスノーゴンのいた位置を見た。爆発の影響でいまだ煙が晴れておらず、はっきりと姿は見えない。
「やったのかしら・・・。」
「どうだろうな・・・。」
やがて煙が晴れていった。
すると・・・
「うわあ・・・」
「これはすげえな。」
全身凍りついたスノーゴンの姿があった。
巨大な氷の像となったスノーゴンの姿は、もう動かないと分かってはいても思わず身構えてしまうほどの存在感があった。
「リディアさんはどうなったのかしら。」
「近づいてみるか。」
レイミと魔理沙はゆっくりとスノーゴンの氷像に近づいていった。
すると・・・
「いたわ!」
レイミがリディアの姿を捉えた。
氷の地面に横たわるリディア。彼女はすでに全身真っ白に凍結してしまっていた。
目はうつろに焦点を失っており、口は微かに開かれたまま固まっていた。
四肢もだらんとしたまま凍りついておりピクリとも動く事は無い。
おそらくは魔理沙の攻撃によってスノーゴンから振り落とされ、地面に落下した後に冷気を浴びてしまったのだろう。
リディアはまるで地面と同化するように張り付いたまま氷像となっていた。
「少しかわいそうな気もするわね。」
「ああ・・・」
レイミと魔理沙はしばらくの間、幼い少女の氷像を悲しげに見つめていた。



「手を貸そうか?」
はやてさんの言葉に私は即座に動いた。
「ん?っとわああっ!?」
呆けていた魅音の腕を掴み、背負い投げの体勢に持ち込む。
「はあっ!」
そのまま私は魅音を詩音へと投げ飛ばした。
「お姉!きゃっ!」
姉妹はそのまま縺れ合いながら地面を転がった。
「お願いします。はやてさん。」
どうしてはやてさんが無事なのか。もちろん気にはなるがそんなこと今はどうでもいい。
はやてさんが無事だった。また一緒に戦える。それだけで私には十分だ。
「一緒にあの二人を倒しましょう!」
「了解や。ほなティアナ、行くで!」
「はい!」



「てやあっ!」
「はっ!」
「ちょっとタンマタンマ!」
「きゃああっ!」
私とはやてさんの猛攻が魅音と詩音を襲っていた。
はやてさんが持っているのは杖だ。あの武器には見覚えがある。確かティア・グランツという少女が使っていたものだ。
はやてさんの杖から発せられる光が弧を描き二人を襲う。私たちも苦しめられた武器だが、今見てもその威力はかなりのものだった。
何せ、小さな氷柱ならば破壊しながら突き進んでしまっている。
(私たち・・・こんな武器相手に良く助かったなあ・・・)
そんなことを考えつつ、私も攻撃に専念する。
「そこっ!」
はやてさんの攻撃の合間に二人に向けて銃弾を放った。
「うわっ!」
「お姉!ってきゃっ!」
(よし!)
完全にこちら優勢だ。
はやてさんの目立つ上に破壊力のある攻撃。敵はどうしてもこっちを気にしてしまうだろう。
そしてその合間の私の目立たない攻撃だ。
はやてさんの攻撃に気をとられている敵にとって、私の攻撃は常に不意打ちに近い感覚ではいる。
「くっ・・お姉!こっちも反撃を・・・」
「あーごめん・・・拳銃なんだけど・・さっきティアナを取り押さえる時に落っことしちゃった。(てへっ♪)」
「お姉ええええええっ!?」
「ごめんごめん・・・ってやば!」
ドンと背中に氷の壁が当たった。
魅音と詩音は壁際に追い詰められてしまった。
「さて、そろそろ終わりにしましょう。」
「そーやな。追いかけっこもここまでや。」
「お姉・・・・」
「・・・詩音。ここは逃げるよ。」
「でも・・・」
どうやって?と詩音が言う前に魅音はポケットからあるものを取り出した。
「大丈夫『私たち』は生きのこる。」
そう言って魅音は取り出したそれを地面へ投げつけた。
ぶわあ、とあたり一面に広がる煙。
「煙幕!?」
「あかん!ティアナ、早く仕留めるんや!」
「はい!」
私とはやてさんの攻撃が魅音と詩音がいたところに降り注いだ。
「きゃああっ!」
光と銃弾の猛攻が襲い掛かる。
だが、煙のせいで中の様子は良く分からない。
「やった・・・んでしょうか・・?」
「気は抜くんやないで・・」
私は煙の中へと注意を向ける。すると
ドゴォン!
「!?」
「なんや!?」
突然煙の中から爆音が響いた。
爆風のおかげで煙が晴れていく。そこには・・・
「やられたなあ・・・」
「ええ・・・」
一人の少女の氷像。そしてその背後の壁に大きく開けられた穴。
「一人逃げられたようやな。」
「そうですね。」
青白く染まり、動きを止めたロングスカートに、長いポニーテール。
目の前にある氷像は魅音の姿をしている。
表情こそ苦しさが表れているが、彼女はまるで何かを庇うかのような格好で氷像となっている。
氷像となって尚姉妹を守るかのように穴の前に佇んでいる彼女。彼女はどちらなのか。果たして生き延びたのは魅音なのか詩音なのか。
それは当人達しか知りえないことだった。
「ま、とりあえずコレでここは大丈夫やろ。」
「?」
はやてさんは戦闘の終了を確認すると、そのままどこかへ立ち去ろうとした。
「はやてさん!どこへ!?」
「んー。すまんけど・・・まだあんたらのところには帰れんのよ。
またな、ティアナ。今は仲間のところへ行ってやり。」
そう言ってはやてさんは立ち去っていってしまった。
「・・・っ!」
私は追いかけたい衝動に駆られたが、確かに今は仲間の安否が大切だ。
私は一目散にフィーナの元へ駆け出した。



「おーい!」
「ティアさ〜ん!」
「レイミ!早苗も!無事だったのね。」
あのあとすぐに私は二人と合流できた。
「はい、アリスさんが助けてくれました。」
「こっちも、魔理沙って言う人が・・」
「え・・アリスに魔理沙が・・?」
二人の話によるとアリスと魔理沙がそれぞれ二人を助けて、そのままどこかへ去っていったらしい。
いったいどう言うことだろうか、あの二人と私たちは敵だったはずだ。何故助けてくれたりなどするのか・・・。
「くそっ、そんな事は後回しよ。フィーナのところへ行かないと。」
「そうね。」
「はい!」
私たちはフィーナの元へと急いだ。



「フィーナ!」
ようやく私たちがフィーナのところにたどり着くと、そこには全身のいたるところが凍結しかけているフィーナの姿があった。
右足に左腕、左脇腹に両肩口など、何度も何度も咲夜の攻撃を受けた後が見て取れた。
「フィーナ!今助けに・・・」
「来ちゃ駄目!あなたたちでは負けるわ!」
「っ!」
フィーナの激しい声におののいてしまう。
確かに咲夜のあの力の前では私たちなど一瞬でやられてしまうだろう。
私たちにはどうする事もできないのか・・・
「お願い・・・そこで私を見ていて。」
フィーナが私たちに向けて言った。
「ティアナさん・・・」
「ティア・・・」
早苗とレイミが私のほうを見る。
「・・・うん。分かった。」
私は強くフィーナに頷き返した。
フィーナは言っているのだ。
ただ、そこで私を見ていてくれと。
足手まといだとか邪魔だとか行っているんじゃない。
最後まで私を見届けてくれと。
だから私たちはフィーナを信じる。
信じて、フィーナの勇姿を最後まで見届ける。
「だから・・・必ず勝ちなさい!」
フッと微かにフィーナは笑うだけだった。



やがてフィーナに咲夜が言う。
「さて、しぶといですね。」
「あら、ごめんなさい。意地汚い姫で。」
(とはいったもののそろそろやばいわね・・・)
だんだんとキュアリングの効果が薄れてきているのをフィーナは感じていた。
(あと・・2,3回が限度かしら・・)
それまでに決着をつけれるか。
(いえ・・・あと1回で十分だわ・・・)
フィーナは咲夜を見た。咲夜は相変わらずすまし顔でフィーナと相対しているが、フィーナは咲夜からとあるものを感じていた。
焦りだ。
なかなか仕留められないということもあるだろう。
だが、もっと別の・・・
(やっぱりもうすぐアレが来るのね。)
フィーナは覚悟した。次の一手で決めると。
「ねえ咲夜さん、そろそろ終わりにしませんか?」
「あら、こちらもそう思っていたところですよ。」
お互いに武器を構えるフィーナと咲夜。
そして
「はっ!」
咲夜が駆け出した。
「ていっ!」
それと同時にフィーナはとある行動に出た。
「なっ!?」
咲夜に武器を投げつけたのだ。
「くっ!」
舌打ちの後、咲夜の姿が消えた。
そして、
「無駄な足掻きでしたね。」
フィーナの目の前に現れた咲夜はその手に握られたナイフを深く深くフィーナの胸に突き刺し、フィーナの体を凍結させていった。
致命傷に値する一撃だった為、キュアリングを装備しているにもかかわらずフィーナの体は胸元から首筋まで一気に凍結していった。
(これで終わりに出来そうですね・・・)
咲夜が思った瞬間。
ガシッ
「!?」
瞬間フィーナが咲夜を思い切り抱きしめた。
「捕まえた・・わ・・・」
「何を・・!?」
咲夜の顔に焦りが表れる。
パキパキとフィーナの凍結は進行し、やがてその腕も凍結してしまった。
「これでもう、あなたは逃げれないわ。」
「な・・・!?」
咲夜はもがく。だが、凍りついたフィーナの腕をどける事はできない。
「あなたは止まった時の中を移動してるだけ。ならば、通れる道が無ければいくら時が止まった中でも移動は出来ない!」
「っ!」
「今のあなたに道は無いわ。ただ、止まっている時の中でも私に捕まっているだけよ。
そして・・・」
フィーナは静かに目を閉じた。
感じる。
風がやんでいくのを。
フィーナは作戦の前の魅音の言葉を思い出す。

『今回の作戦は、ハルヒがコキュートスで固まった龍を倒すというものだ。
でも正直に言って竜が一回のコキュートスでやられるかは疑問だ。
だからこそ今日を選んだ。』
『それはどうして?』
ティアナが聞いた。
『今日は2回来るんだよ。しかも結構短い間隔で。』

なのにハルヒは1回目で龍を倒してしまった。
全くとんでもない少女だった。
でも、そのおかげで咲夜を倒す事ができる。
「ちょっと!これって!」
ティアナが焦り始めた。
どうやら気づいたらしい。
「そんな・・・フィーナ!」
「フィーナさん。」
レイミも早苗も気づいたらしい。
「必ず勝ちなさいって言ったじゃない!」
ティアナの声が聞こえる。
「ゴメンなさい、ティア。」
私はそう答えるしかなかった。
やがて本格的に風が止まった。
コキュートスの前兆だ。
これでもう本当に終わりだろう。
ならば、皆に伝えなければならない。
たった一言。
「ねえみんな。」
有りっ丈の気持ちを込めて。
「ありがとう」
「っ!?」
ティアナの声がつまった。
瞬間、あの豪風が氷原エリアに吹き渡る。
「ティア早く隠れて!」
「ティアナさん!」
レイミと早苗にティアナが引っ張られるように壁の隙間へと消えていく。
「フィーナの・・・馬鹿やろーーーっ!」
(・・・ゴメンね。)
私は心の中でティアナたちに謝りながら、今私に捕まっている少女に語りかける。
「あら、ずいぶん大人しいわね。」
「ええ、もう抜けられないと分かりましたからね。
でも頑張ってからだの向きだけは変えさせていただきましたわ。あなたと抱き合いながら凍りたくはありませんもの。」
「ふふ・・・でもこっちの方があなたを捕まえたって感じがするわ。」
「ふん・・・」
咲夜との会話を終えたフィーナは前を見た。
すぐそこに、目で感じられるほどの凄まじい突風が迫ってきている。
(これで・・・終わりね。)
最後に、と。
フィーナは祈る。
ありがとう。私を仲間と呼んでくれて。
ありがとう。今まで一緒に戦ってくれて。
ありがとう。私を信じてくれて。
そして最後は誰にとも無く
ありがとう。この出会いに。
吹雪がフィーナたちを包み込んだ。
それはフィーナの顔を、髪を、そして純白のドレスをも一瞬で青白く染め上げていく。
(さようなら・・・)
彼女達に幸あらん事を。
やがてフィーナの全身が氷に覆われる。
その瞳が焦点を失い、フィーナの意識は静かに消失していった。



コキュートス去った後。
そこは完全なる氷の世界と化していた。
動いていたものは凍結し、すでに凍結していたものは氷の侵食によってただの氷の塊と化す。
ハルヒ、みゆき、そしてヤミも急速な氷の侵食により、いまやただの氷の塊となってしまっていた。
吹雪が去り、姿を露わにした太陽の光を受けて輝く彼女達。
そんな幻想的な光景にも目も暮れず、私たちはフィーナの元に歩いていった。
そして、私たちはフィーナの姿を目にする。
純白のドレスとヴェールをはためかせ、咲夜と共に氷像となっている少女。
フィーナ・ファム・アーシュライト。
敵である咲夜を優しく包み込むような腕。風邪に吹かれてたなびく髪。その綺麗な顔立ちもそのままに青白く染められ、微塵たりとも動く事は無い。
優しく開かれたその瞳に、光が戻る事はもうないのだ。
私たちはフィーナの氷像を前にただ、佇むしかなかった。
この日、氷結世界での闘いは幕を下ろした。だが、私たちは大切なものを失ったのだ。



やがて、辺りには緩やかに雪が降り始めた。
空はどこまでも澄み渡る晴天。
晴れながらにして降る雪は、風に乗り、舞い散る花びらのように降り注ぐ。
「これは・・・風花・・・」
と、涙を目に浮かべながら早苗が呟いた。
雪の花弁は氷原エリア一帯に吹き渡っていた。
「終わった・・・ということかしらね。」
ここでの戦いが。
と、ティアナたちとは別の場所、小高い氷壁の上でアリスが呟いた。
魔理沙やはやても空を見上げてはその光景に見とれている。
「嵐の後の奇跡・・・ってやつかね・・・」
また別の場所。氷の大地に寝転び空を仰ぎながら、緑色の髪の少女が言った。
遠くから風にのって運ばれてきた雪が、高く澄みきった晴天の元に落ちていく。
それは無数の光の粒子。
陽光に煌く雪は幻想的に、この冷たい氷原エリアを照らしていた。
このエリアの闘争の終わりを告げる雪。
厳しい冬の激風が去った後の、まるで奇跡のような光景。
そんな奇跡の中にフィーナの氷像は光る雪を纏い輝いていた。
光に包まれる彼女の姿を見て。
ああ、きれいだな。って
私は思った。



今回の被害者
北条沙都子:凍結
リディア:凍結
園崎魅音?:凍結
十六夜咲夜:凍結
フィーナ・ファム・アーシュライト:凍結


残り42人

つづく


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