カタメルロワイヤル第13話「神殿」

作:七月


私は一人、野を駆けている。
見渡す限りの草の海。
空は青くどこまでも澄んでいて、風が辺り一面を広々と吹き渡る。
風を受けてなびく草々。
そんな中を全身に風を受けながら私、ティアナは走る。
「さーて、見えてきたわ。」
草原の先には小ぢんまりとした森。さらにその先に見えるのは石造りの巨大な建造物。
その上には赤い光が浮いていた
その光の麓こそが私の目的地。
「待っててね、フィーナ。」
私は一目散に目的地に向かって走る。
「今度は、私が助ける番よ。」
そう、今の私には希望があった。



それは今から数時間前。
氷原エリアでの激戦のあと、私たちはしばらく何もする気が起きず、ただフィーナの氷像の周りで無意味な時間を過ごしていた。
逃げ延びた魅音の動向や、はやてさんの行方。アリスと魔理沙の思惑など気になる事は山ほどあったのだが、そんなものがどうでも良くなるほどに私たちの意気は消沈していた。
そんな時
「ピーンポーンパーポーン。」
今の私にはむかつくほど軽快なリズムで、私たちの耳に放送が届いてきた。
「現在の残り人数は・・・おっと!40人になりました!」
そうか、もうそんなに減っていたのか。
これで6割の参加者が脱落した事となる。その中にはなのはさんやフェイトさん。
そしてフィーナも・・・
「これだけ減ると大事な人の一人や二人失ったんじゃないですかねえ?」
ガンッ!と、私はその軽い声に思わず地面に拳を叩きつけてしまった。
早苗とレイミがその音に身をすくませたのが分かり、慌てて私は謝った。
「さてさて、そんな方に朗報です。・・・もしもその人を救えるとしたらどうですか?」
「な!?」
私は放送の内容に耳を疑った。
今こいつはなんていったんだ。
「もしも固まってしまった人を救う方法があるとしたら・・・あなたはどうしますか?」
今度は確実に聞いた。
放送は言っている。固まってしまった人を救う方法があると。
森エリアが封鎖された以上なのはさんとフェイトさんの救出は難しいだろう。だけど、フィーナだけでも救う事ができるかもしれない。
「今から2時間後、神殿エリアにてちょっとしたミニゲームを行います。
ゲームの内容は至極簡単。こちらが指定したエリア内で、サバイバルゲーム形式で戦ってもらいます。そして、そのゲームの優勝者ただ一人に治療薬を渡しましょう。
それでは参加される方は、神殿エリアに赤い光を目印として浮かばせておくのでその下に集まってください。」
ブツン、と最後にそう言って放送は終わりを告げた。
「ティア・・・今の。」
「うん・・・」
まさかこんなタイミングで希望が見えるとは。
私は歓喜に震えていた。
私にもまだ誰かを救う機会が残っていた。
「このゲーム・・・乗りましょう!」
かくして私は単身、神殿エリアへと向かう事となった。



「ティアナさん・・・大丈夫でしょうか・・・」
氷原エリアの一角。あの戦闘が起こったエリアで留守番している早苗が言った。
「私も手伝いに行けたらよかったのに・・・」
「ルール上それは厳しいわ。」
早苗に対し、同じく留守番中のレイミが言う。
「治療薬がもらえるのは優勝者の一人。だったらもし私たちまで参加したら。最悪私たち同士で潰し合わなくちゃいけないでしょ?」
「なるほど・・・」
「だからここはティアを信じるしかないわ。」
「そうですね・・・・。それにしても運営さんもなかなか粋な事をしてくれるものです。
治療薬を出してくれるなんて・・・案外優しい人もいるのでしょうかね。」
早苗はそんなことを言っていたが、これはそんな運営者の慈悲によるものではない事はレイミには分かっていた。
(たった一人を助ける為に何人もが潰し合いをする・・・。)
一人のために確実に何人かが犠牲になる仕組み。
それをこの参加者の6割が退場し、残りの参加者同士が次第に警戒しあい、ゲームが停滞し始めるタイミングで開催してきた。
(相当考えているわね・・・)
常に闘いをやめさせないようにこれからも運営者は手を出してくるだろう。
そのことが、レイミにはとても気がかりに感じられた。
(とは言え今は目先のことを考えましょう。)
それはたった一人で神殿エリアへと向ったティアナのこと。
(どうかあなたは無事に戻ってきて・・・)
レイミは空に祈りを込める。



「着いたわね。」
森を抜け、私が見たものは荘厳たる白い石造りの神殿だ。
段差の大きな階段の先には石畳の回廊、それを囲むように太い円柱が立ち並び、その奥には巨大な長方形の入り口があんぐりと口をあけて私たちを待ち構えているようだった。
入り口の脇や、所々には蛇やら蜥蜴やら鶏やらの怪物の石像が彫られているのはこの世界らしいといえようか。
そして、この神殿の階段の手前に何人かの参加者が立っている。
どうやらそこが集合場所のようだ。私もそこへ向かって歩いていきながら、私以外の参加者を見回した。
そこにいたのは
赤く長い髪に、普通の女子高生らしい制服を着た少女。
茶色い短髪に、ブレザーを着込んだ中学生のような少女。
桃色の髪にカチューシャを挿した、まるでセーラー服にも似た西洋風の衣装に身を包む少女。
赤い巫女服のような衣装に身を包んだ少女。
青い髪に猫の耳を生やした少女。
黒い髪にこちらは犬のような耳を生やしたアイヌ民族のような服装の少女。
銀色の髪に黒いカチューシャをした、日本の刀をその腰に下げている少女。
白く大きな帽子とマントを身に付けた、長く赤い髪の女性。
さらには全身布で覆われ、素性の分からない少女までいる。
この9人が今から私が雌雄を決する相手となる人たちだろう。
「ほう、これで10人目か。」
やがて参加者たちに囲まれるように一つ存在していたカプセルの中に映っている人物が言った。
「ふむ、そろそろ時間だ。はじめるとしよう。」
どうやらこの人物が今回このミニゲームを仕切るのだろう。
「それではこれより治療薬争奪バトルロワイヤルを行う。
いまからお前達を神殿の中へと転送する。そこで戦い合い、最後の一人が神殿の奥にある治療薬を手に出来るだろう。
それでは今から転送するからこの中に入るが良い。」
カプセルの中の人物が右手を上げると、私たちの近くに10個のカプセルが出現した。
私たちは言われるがままにそのカプセルの中に入っていく。
「これから貴様達の度胸、実力、そして運が試されるだろう。それでは皆の健闘を祈ろう。」
そう言ってカプセルに映っていた人物は消えていった。
それと同時に私たちが入ったカプセルが作動を始める。
「いよいよか・・・」
これからこの10人による潰し合いが始まるのだ。そう思っていた時。
「きゃあああっ!」
不意に一人の悲鳴が聞こえてきた。
慌てて悲鳴のした方に振り向くと、そこにはカプセルの中でもだえ苦しむ少女がいた。
「な・・なによこれ!」
少女の入っているカプセルからは何か透明な液体が滴り落ちていた。
その液体が少女に当たると少女の衣服が溶けていく。
少女はあっという間に衣服を溶かされ、一糸まとわぬ姿になってしまった。
「これは・・・」
見たことがある。忘れもしない、あの教室での出来事。
遠坂凛がブロンズ像へと変えられた光景だ。
「ほう・・・ハズレを引いたのはお前か。確か・・向坂環と言ったか?」
どこからとも無く先ほどの人物の声が響いてくる。
「言っただろう、度胸、実力・・・そして“運”が試されると。
運に見放されたお前はここでブロンズ像になってもらう。」
「な・・にを・・・」
環がそう言葉を発した瞬間、環のカプセルから緑色のガスが噴出された。
ガスは瞬く間にカプセル中に充満し、環の体を包み込んでいく。
「きゃあああああ・・あ・・・」
環の叫び声が途切れた。
私も、周りの参加者もその光景を固唾を呑んで見守っている。
目の前で参加者が無様に固められていく光景。今まで何度も見てきて事とは言え、これから私たちが辿るかもしれない結末を改めて見せられているようで緊張感が高まってくる。
やがて環の入っていたカプセルが音を立てて開いた。
そして、霧散していくガスの中から環のブロンズ像が姿を現した。
吊りあがった眉に見開かれた両目、ガスにむせるように大きく開かれた口。その表情からは凛と同様に苦しさが見て取れた。
足は内股に閉じており、両手は胸の下でクロスされている為その大きな乳がいつもにも増して強調されている。
全身青銅色に覆われた環。
ひとつの美術品と化した彼女が動く事は無い。
「ふはは・・・やはりブロンズ像は美しいな。
さて、残りの諸君はじっくりと固め合いを楽しんでくれ。」
そう声が聞こえると同時に私たちのカプセルが光に包まれた。
「っ!?」
真っ白に染まる視界。
やがてそれが晴れていくと・・・
「ここは・・・」
左右上下と古びた石壁に囲まれた通路。
おそらくは神殿の内部だろう。
ここで固め合えという事か。
「やってやろうじゃない・・・」
私は絶対に生き残る。そしてフィーナを救い出す。
そう決意を込めて私は歩き出した。



この時ティアナの後方数メートル辺りにある曲がり角。
そこから一人の少女がティアナの様子を窺っていた。
少女の手には日本刀。
少女は、ティアナの後を静かに追い始める。



今回の被害者
向坂環:ブロンズ像化



残り39人

つづく


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