従順〜永遠の奉仕〜

作:ロス・クロス


「資料は読んでいただいたと思いますが一応説明させていただきます。その前に一つだけ確認を。加藤さん、貴方は人間を辞める覚悟をお持ちですか?」
「はい。この方のためなら。」
「わかりました。では機材を見ながら説明いたします。まずあちらのカプセルをご覧ください。」
振り返ると身の丈以上もあるカプセルが設置されている。
「あちらの中で、あなたの体を三日三晩かけてこの処理に耐えられるように調整します。必要な部品もこの段階で埋め込まれます。それが終わればこちらの注射を打たせて頂きます。」
白衣は銀色の液体の入った注射を見せる。
「この液体を注入されると手足は動かせなくなります。最後にあちらの装置で最終処理を施します。あの装置の中で確認作業も行われます。」
ふとあの装置の方を見ると外見上は全く同じ機械がもう一つあった。
「最終処理のあと、この装置で梱包します。説明は以上です。これより処理を開始します。最後に何かしておきたいことは?」
「あの、私会長との子供が欲しいです。」
「京子君、私でいいのか?」
「貴方がいいんです。それで、私の卵子をとっていただけませんか?大量に出てしまったら貴方の実験に使用してください。」
「加藤さん、いいんですか?」
「はい。貴方に対するお礼はそれぐらいしかできませんから。」
「では失礼して、加藤さん、服を全て脱いですみませんがそこの台に寝てください。もう必要のないものでしょうからこちらで全て処分させて頂きます。」
京子は言われた通り、服を脱ぎ始めた。3年前と全く同じだ。すぐに美しい裸身が晒される。
「以前よりも成長されましたね・・」
「そ、そうですか?自分ではあまり・・・」
実際は少し以前より大きくなっていた。
「この椅子を借りてもいいかな?」
「あ、申し訳ございません。すぐ準備させます。」
「この椅子でいいよ。君の邪魔をしては悪いからね。」
「申し訳ございません。」
白衣はピンクの液体の入った注射を京子の脇腹に打った。すぐに京子に月ものが起こる。白衣は京子の膣口に歯医者の吸引機のようなものを挿入し、トリガーを引いた。すると、ズズズと音がして赤い血が吸われて行き、機械にセットされた試験管を満たして行く。
三本分ほど溜めてもう一度透明な液体を注射する。するとぴたりとそれは治まった。
「卵子の採取が終了しました。引き続き予定の処理を開始します。さっきのカプセルに入ってください。」
扉が開けられたカプセルにその身を横たえる。
「じゃあ閉めますよ?」
扉を閉めて白衣がパソコンを操作する。ビーッ!とブザーが鳴り、カプセルが振動する。すると床から緑色の液体が注入され始めた。ぬるま湯のようなそれはどんどんせり上がっていく。
『あの〜これじゃあ息ができないんですけど』
「ああ、その液体の中では呼吸ができますよ。すぐに眠気が来ると思いますからそのまま寝ちゃってください。」
液体はどんどん満ちて、ついにカプセルを満タンにした。白衣の言葉を信じて思いきり呼吸をしてみる。多少違和感はあるが確かに呼吸できる。それを確認したところで京子を激しい眠気が襲う。そして彼女は眠りについた。力の抜けた体が水中を漂う。
「これから三日間かけて彼女の体を調整していきます。ここは機械に任せて大丈夫なので我々は食事でもいかがです?」
「そうだな、ただしここで食べる。寝るのもここで十分だ。」
「いけません、会長にそんな所で寝ていただく訳には・・・」
「私のことなら構わないでくれ。君や彼女に悪いからね。何なら空気と思ってもらって構わない。」
「わかりました。ただ、かなりショッキングな光景をお目にするかもしれませんよ?」
「大丈夫だ。私には彼女を見守る義務がある。寝ないわけにはいかないが傍にいることぐらいはできる。」
食事も地下室で済ませてその日は二人とも寝ることにした。

二日目―

男は眼を覚ますと時計を見た。もう昼前だった。
「おはようございます、会長。」
「おはよう。どうだ?」
「順調です。ただ・・・」
「何だ?」
「これから先は少々刺激がきつ過ぎると思いますので・・・」
「構わん、言ってみてくれ。」
「じつは、一度対象を分子分解しなければならないのです。分子単位で情報を書き換え、そして明日の昼までかかってやっと再構成するんです。」
「必要ならそれも仕方あるまい。」
「よろしいのですな?ではそのままご見学を。もうそろそろ始まるかと。」
その言葉と同時に装置が重低音を上げた。
「はじまります。」
カプセルの中の京子の体が微妙な光を放ち始めた。そして足元から溶けるように消えていく。というよりは本当に溶けている。数時間ほどで京子の体はカプセルから消えた。
「これで私も明日の朝までは何もできません。どうです?よろしければ何かいたしますか?」
「何もできないのではな。トランプはあるかい?」
「ございます。」
「ではそれで何かやろう。君が得意なのは?」
「大富豪ですね。戦略性があって面白いですよ。」
「私も好きだ。」
「ではお手合せ願います。」
こうして二人はトランプを始めたその日の深夜までそれは続いた。

三日目―

男は白衣に揺すられて目を覚ました。
「おはようございます。会長。間もなく再生が始まります。」
「おお、そうか。」
「・・・5・4・3・2・1再構成開始!」
白衣がカウントすると同時に再び液体が光を放ち、気泡が乱れる。光が中心に向かって密集していき、やがて大きな塊となる。そしてそれが一気にはじけるとそこには京子の裸体が浮かんでいた。昨日と違うといえば、たまにピクピク動くことくらいだ。
「彼女に意識はあるのか?」
「いえ、あれは機械を埋め込んでいるのですよ。あと10分もすればこの処理は完了です。」
10分はあっという間だった。白衣がハッチを開け、京子を取り出して金属で出来た人型の掘られた台に寝かせる。
「で、どこが機械になってるんだ?」
「外見上はなんら変化はありません。ちょっと見ただけではわからないでしょう。彼女の局部、臍、乳首です。乳首に至っては生身の部分に直接接続することができます。局部の端子も少し奥まった位置にしてあります。下からのぞいてください。」
言われた通り、男はまだ眠る京子の股を開き、その間にある局部を覗きこんだ。確かに白衣の言う通り、女性器は上下二つとも穴を塞がれ機材が取り付けられていた。その後ろの褐色の菊座も皺の奥に端子が覗く。それ以外の場所は本当に生身のままだった。
暫くして京子が目を覚ます。男はそれに気づき、とっさに顔をあげた。
「か・・・会長。私の体が・・・」
「京子君、無事に最初の処理が完了した。君の体は一部が機械になっている。」
「そうですか。それで体に重みが・・・」
目覚めたばかりで意識がはっきりしないため、自分の股間を覗かれていたことも彼女はわからなかった。
「加藤さん、少しの辛抱です。いずれわからなくなります。そのままじっとしていてくださいね。注射を打ちますよ?」
白衣は京子の左胸の付け根と左手首に銀色の液体を流し込んだ。
「クッウゥゥ!!」
「痛いですか?すみません、我慢してください。さあ、終わりましたよ。どこかを動かそうとしてみてください。」
言われて京子は動かそうとしたが、どこも動かなかった。完全に力が抜けている。
「う、動けない・・・」
「ここまでは大丈夫ですね。これでもう二度と自分では動くことはできなくなりました。」
白衣は京子の乗った台車を押して、装置に付けた。
「この台車は3年前にも貴方に使用したんですよ。」
装置が低い唸りをたてている。白衣は装置のボタンを押して扉を開いた。扉が上にスライドしていき、大きな口を開けた。
「加藤さん、この処理を受けると貴方は二度と人間には戻れません。今ならまだ辞めて機械も取り除いて完全に人に戻ることも可能ですよ?時間はかかりますが。」
「京子君、いいんだな?」
「覚悟は決めています。いつでもはじめてください。」
「わかりました・・・最終処理を開始します。何か最後に言うことは?」
「会長、ずっとそばに・・・そしてずっと私を使ってください。」
「ああ、一生そのつもりだ。墓場にだって一緒に行くよ。」
「ありがとうございます。会長、最後のボタンはあなたが押してくれますか?」
「いいだろう。好きなタイミングで言ってくれ。」
男の指がボタンに掛けられる。京子は深く深呼吸をして男の目を見つめた。そして最後の一言を口にする。自分の人生に終わりを告げる一言を・・・
「・・・お願いします。」
   カチッ ウィーーーン
男がボタンを押しこむと、京子を乗せた台が動きだした。もう後戻りはできない。徐々に京子の体は装置の中に消えていく。やがて京子の裸身は全て収まり扉が閉められた。京子は二度と外を見ることができなくなった。同時に誰も生身の京子を見ることができなくなった。この瞬間、彼女がこの世から姿を消すことが決定した。もう誰にも止めることはできない。
(ここも3年前と同じね。)
ビービー!!キュィィィィン
ブザーが鳴り駆動音が部屋中に響く。装置のランプが赤く点灯し、処理が開始された。
「最終処理を開始しました。4時間ほどかかる見込みです。もう私にも途中で止める事はできません。」
「わかっている。彼女も受け入れてくれたんだ。途中で止めたりなどしないさ。それにしても4時間か・・・長いようで短いのだろうな。」
「あとは見守ることしかできません。」
「そうだな。」
二人は椅子を扉の前に持ってきて座った。

装置の中で京子は最後の時を待っていた。機械が音を立て、起動準備をしている。暫くして、何も音がしなくなると内部は明るくなった。同時にコードが6本伸びてきて、カチッという音とともに京子の機械化された乳首、臍、性器、肛門に接続された。
(私の体、もう人間じゃないんだ・・・)
暫くしてコード達は肛門の一本を残して引き上げていった。
(資料では私の意識をデータ化するって書いてあったわね。結構複雑だったけど、私の身体が置物になってから私の意識はパソコンのソフトとして再生されるのね。まだまだ働ける。あの人の秘書として。)
やがて前回と同じ様にアーチ型の機械が青いレーザーを照射しながら体の上を何回も往復していく。暫くして、アーチ型の機械は足元で動きを止めた。途端、体中を電気が駆け抜けた。しかし体は反射的にすら動かない。そして最後のコードも引き上げた。
装置が激しい音を立て始める。京子の美しさを永遠にするため、機械達が動き始めた。
(始まるのね・・・さあ、私を永遠にしなさい!)
アーチ型の機械から赤いレーザーのカーテンが形成され、それが京子に襲いかかる。そのカーテンに足が触れたとたん、異常なまでの不快感が京子の全身を襲う。銀紙を奥歯で噛んだようなあの不快感が。同時に激痛も全身を貫く。
「ああああっぁあぁっああぁあ!!くぅっ!あああああ!!!!!!」

「始まったようですな。金属化が。」
「・・・京子君・・耐えてくれ。」
男二人は見ているしかできない。
装置の中からは京子の叫び声が聞こえる。

装置の中では京子が徐々に金属の塊に変換されていた。余りの激痛に叫び声がを上げる。体中に玉のような汗が吹き出しこぼれおちていく。
装置は動けない京子の体をどんどん浸食していき、温かい人間から冷たい金属へと変えていく。女性らしい肉付きの太ももまでが金属化し、今まさに京子の女を硬い金属にしようとしている。ヒクヒクと動き、端子をちらつかせる割れ目もその下に位置する皺にもレーザーが触れると金属に変換されその動きを止めた。股間の密林はその黒さを失い、鋼線へと変えられていく。金属化した部分はすでに感覚がないが、そんな事は京子には判らなかった。金属化のカーテンは腹部に到達し、引き締まった自慢のウェストを固めて行った。そしてついに、装置は乳房を襲い始めた。肉体の改変により、大きさはそのままに、少し先鋭的な形に変形された乳房も金属化の犠牲になっていく。温もりを持った巨乳が大きな金属の塊に変換されていく。最後にプルンッと揺れてその動きをとめる。京子は自分の身体が変換されて行く様を見ていた。レーザーが乳首を覆うと、赤い乳首は銀色の突起物となり、ただコードを付けるための端子になった。胸の中にも激痛と不快感が広がって行く。温かった乳房は人としての役目を終え、ただの金属の塊になった。もう母乳を分泌することもない。やがて首から下は全て金属となり、残すはその美しい顔のみとなった。麗しい唇を通り過ぎ、高めの鼻も固められた。京子は最後に目を閉じた。レーザーなので当たる感覚はないのだが、彼女は眼が開けられなくなったことでそこまでが金属化した事を知った。
(か・・いちょ・・・う)
そして意識は闇の中に落ちて行った。
アーチ型の機械は京子の体を全て通りこすと、また足元に戻り再び照射を始めた。人間だった痕跡を消すかのように。これを何回も繰り返し、作業は全て終了した。銀色に染まった頬の上を一筋の涙が伝っていった。この時をもって加藤京子という名の女の人生は幕を閉じた。
ビーー!!キュゥゥゥン・・・
ブザーが鳴り、装置のランプが赤から青に変わった。
「会長、全て終了しました。排出します。」
「頼む。」
白衣がボタンを押すと、シュウゥッと煙が流れ出る。それを押しのけて何かが出てくる。台車にそれが載せられると、煙が晴れてそれが何か確認することができた。
それはつい4時間前まで生きていた加藤京子のなれの果て。全てを金属に変えられ、永遠に男の物となった京子だった物。子宮があった場所の上に手を置いて、キスを求めるような表情をしている。
「京子君、ありがとう。美しいよ・・・」
「会長、どうされますか?」
「すぐに包んでくれないか?明日にでも使えるようにしたいんだ。」
「かしこまりました。」
白衣は台車を押して、コンベアーに付けた。台がスライドして装置の中に入っていく。
ガゴンガゴンジジジと工事現場のような音がしている。数分後、反対側から黒い箱が出てきた。まるで西洋の棺だ。
「いつでも出せますよ?」
「では今から行こう。配線もできるんだろう?」
「お任せください。」
「少し待ちたまえ・・・私だ。2号車で例の場所まで来てくれ。1時間?わかった・・・1時間で迎えが来る。上に上がって待っていよう。」
「了解しました。」
台車を押しながら二人で1階に向かう。やがて一台のバンが建物の入口に止まった。
「お待たせいたしました。」
「これを乗せてすぐ私の部屋まで行ってくれ。彼も一緒に行く。」
「かしこまりました。お乗りください。」
こうしてバンは夜の闇に消えて行った。

翌日−

「会長、お食事をお持ちいたしました。」
「はいりたまえ。」
彼の今の第一秘書山口玲子が入ってきた。
「会長、京子・・いえ、加藤第一秘書はいったい?」
「彼女は依願退職したよ。」
「・・・そうなんですか・・・」
「運んでくれてありがとう。何かあったらまたお願いするよ。」
「はい、失礼します。」
玲子が出て行ったのを見て、部屋に鍵をかける。机の横の仕切りの陰に入っていく。そこに彼女はいた。端子にされた局部等にコードを接続され、眠ったような顔をして光輝く裸身を晒している。接続された画面には、彼女の意識をデータ化したものが映っている。自我をもち、イヤホンさえ付ければ音声会話もできる。設定を変えればイヤホンなしでもできるがあえてそうしている。画面の中の彼女も固められた彼女も満足な顔をしている。
「京子君、私はずっと君のそばにいるよ・・・」
男はそう誓うのだった。京子の体は光もあたらないのに一層輝いて見えた・・・

終…?


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